出会い
昼夜問わず、老若男女が一獲千金を狙う。王国はもちろん、町や村でカジノを運営している、大陸・トバジールでは当たり前の光景だ。
そこで夢破れる者も多い中、コレットは各地のカジノを巡り日銭を稼いでいた。
大きな勝負には滅多に出はしないし、目に見えるイカサマもしていない。それでも負けなしと来れば、何かしらやっかいな事も起きると言うもの。ある程度の稼ぎで見切りをつけては、また新しい獲物へ移るのだ。
今日も小さな村から少し大きな町へ向かう途中だった。
「ん?」
一般的な街道。まだ夜明け前の為に人は少ない。その脇の草むらで音がするのに気付いた。
少し構えて目を凝らすと、コロン。赤い物体が転がり、コレットの前に止まった。
丸まったそれは子供の頭程の大きさで、赤い鱗に覆われている。生き物であるのは間違いない。
様子見がてらに観察していると、小刻みに揺れながら少しずつ形が変わっていく。
「これ……もしかして……」
コレットが答えを発すると同時に、赤い物体は羽を伸ばす。
「ドラゴン……?」
つい先ほどまでただの赤い物体だったそれは、小さいながらも、骨ばった羽と牙を持っていた。まさしくドラゴン。
爬虫類にも似た大きな瞳はコレットを視線の先に捉えると、嬉しそうに細められた。
「わん!」
「?!!」
ドラゴンから発せられた鳴き声に、思わず後ずさる。
「な、なんなんだ……犬でもないのに、い、犬のように! 俺が驚くのも当たり前じゃないか! ドラゴンとはそもそも……」
苦手な犬を思い起こさせる鳴き声に、明らかに動揺した。自分自身にブツブツと言い訳をして、ドラゴンには文句を垂れる。
「わう!」
「! また……!」
そこでハッと我に返り、コホンと咳払いをした。
「こんな所にいると、悪い奴に連れていかれるよ。早く巣に戻った方が良い」
小さな小さなドラゴン。いくら犬の様に鳴こうが罪はない。動揺していた先ほどとは違う、コレット本来の喋り方で優しくそう諭した。ドラゴンの中には人間の言葉を理解する種も多い。もっとも、ほんの子供のこのドラゴンが理解出来るとはコレットも思ってはいない。案の定、首を小さく傾げた姿を見て、困った様に微笑んだ。
「わかんないだろうけど……。ここは危ないからね。早く帰るんだよ」
二度目の注意をして、ドラゴンの横を通り過ぎる。
離れない視線に気付かないふりをして。
――とてとてとてとて。
……ついてくる細かく小さな足音には、本当に気付かなかった。