行く末
――とてとてとてとてさ
「……え?」
しばらく歩いてやっと、可愛らしい足音を聴き取った。
おそるおそる振り返る。
「うわっ!? 何で付いて来てるんだ!」
予想はしていた。だが、目の当たりにすると驚きたくもなる。
大きな声で非難されても、先ほど別れたはずのドラゴンはお構い無しだ。小さな歩みでコレットの足元に追いつくと、嬉しそうにすり寄って来た。
「……!」
このまま町まで付いて来させる訳にも行かない。僅かに眉根を寄せて、ドラゴンを抱え上げた。
「お前、帰る場所がないのか?」
「わう?」
目線を合わせて尋ねても、返って来るのはキラキラとした眼差しのみ。
「参ったな……」
ちらり、と腕時計に目を落とす。時間を確認する訳ではない。これは予知能力の有るコレットの癖だ。
予知能力があるからと言って万能とは言えず、近い未来しかわからないし、制約もある。むやみやたらに使えはしない。だからコレットにしてみれば、ほとんどギャンブルに勝つ為の能力だ。
最初にドラゴンを見つけた時は、この力を使ってやろうなどとは思わなかった。
しかし今となってはいささか事情が違う。
一つ溜息を付いて、神経を集中させた。
「あー、なるほど……ね」
見えた未来は、あまり良く無い。何とかまいて置いて行っても、街にこのまま付いて来させても、結果は変わら無いに等しい。
闇商人やら冒険者なりに、商品の為に捕獲されるか経験の糧にされるか。この幼いドラゴンにはどちらの未来も余りに酷だ。
「お前の巣、何処だろうな……」
ドラゴンの巣に近付くなどと、本来は自殺行為。だがこのドラゴンの行く末を見て、放っておけるコレットではなかった。出来るなら仲間のもとへ返してやりたい。そう思い始めていた。
ドラゴンは問いとも付かないその言葉に瞳を瞬かせ、初めてコレットから視線を外した。
向けた先には遠くにそびえる険しい山。
「……あそこが帰る場所?」
「わう!」
滲み出る肯定の響きに、コレットは苦笑した。
「仕方ない。急ぐ目的がある訳でもなし、付き合ってあげようか」
ドラゴンを胸から離し、宙に抱え上げた。
昇り立ての朝陽で影を作りながら、ドラゴンは嬉しそうに羽をばたつかせる。
「わん!わん!」
――こうしてコレットと小さなドラゴンとの、短くも密な旅が始まったのだ。