† 一の罪――堕天使斯く顕現す(参)
得物を解除すると、彼女の顎を掴む林原。
「おい、いい加減に――」
「……体制側と対立しても、なんも得はしないよ」
咄嗟に魔力推進で割って入ろうとしたが、多聞さんに片手で易々と制されてしまった。
「林原くん、そのくらいにしておいてもらえるかな。君も職務中だろう。女の子に気を取られて万が一のことがあったらどうするさ」
口調こそ普段の彼と同じく軽いものの、仲間でも息を呑む目力で前に出る。
「はん、俺がんなドジふむか。だいたい女だと思っていながら、んな仕事やらせてんならまた驚きだぜ」
しばらく睨み合っていたが、林原は溜息をつくと部屋を後にした。
「ほんっと、あの人あいかわらずほんとありえない……! ちょっと強いからって、なんなのあの態度」
ビルを出てからも、三条の苛立ちは収まらない。
「ま、コーヒーでも飲んで落ち着こう」
「さっすが隊長―、部下想いっすね」
「奢るとは言ってないけどねー」
数分前とは一変して、今は気が抜けた中年らしい、いつもの多聞さんに他ならなかった。
「……よくその歳でんな子供騙しな甘ったりーもん食えますね」
「大人騙しよりはマシじゃん。余計なオシャレ気どりで変なもの入れてないほうが好きなんだ」
目についたカフェでテーブルを囲む。
「……あの踏み込み、あいつも人間じゃ――それに、三条のこと知ってるっぽかったけど」
「あー、政府直属の武力警察、ヘルシャフト長官・林原政俊。うちの元五位の妖屠だよ。ほら、妖屠って怪魔の残滓が濃く残ってる被害者を実験にかけて、彼らを憎む心が強いとなれるじゃん? 組織を離れても、その想いがある限り、力は使い続けられるわけ」
「何が支配(ヘルシャフト)だか……厚顔無恥もこじらせると死に至る病だよ、まったく。国に支配されている側のくせして」
三条が嫌そうに付け加えた。
「……元ってことは――」