† 一の罪――堕天使斯く顕現す(伍)
「七つの大罪にあたる悪魔は中でもエグいと言われてるね。アスモデウスは生殖機能、ベルフェゴールは信頼、マモンは金運を対価に持ってっちゃうんだって。ま、背伸びしても人間に御せるのはこれぐらいが限界らしいよ」
「……それ以上の悪魔は、なにを……?」
三条が恐る恐る尋ねた。不機嫌そうに口を閉ざしていたのかと思いきや、ケーキを食べるのに夢中だったらしい。
「ベルゼブブは魂。そして……史上最強の悪魔で地獄の頂点に君臨する魔王、ルシファーは――」
「いんやーっ、今日も儲かったなー!」
返答は、若者の弾んだ声に遮られた。
「でもこんなに易々と騙されてくれるもんなんだな」
テーブル席を囲んで、大学生ぐらいの男女数人が盛り上がっている。
「人聞き悪い言い方すんなよー。先輩が立ち上げたベンチャーでインターンしてたとき、営業はウソさえつかなきゃいいって言われたぜ。貧しい国の子どもたちが困ってるのも、支援が必要なのも事実。その受け取った支援をどう使うかは書いてねーけどなー。ほらほら、中途半端に金ある奴ほど見栄はりたがんじゃん? どうせ寄付が最終的にどうなるかまでは見れねーんだから、お互いウィンウィンってやつよ」
中心人物らしい派手な青年が、声高に語った。
「もう限界だ……会社、もどりたく……ない…………」
彼らと正反対に、ブツブツと隅で背中を丸めている中年が一人。
「人事ウケもいいし、大企業に入って募金しても余るぐらい稼いでやろうぜ。ま、募金なんてしないけどなー。自分で頭使って手に入れたもんを弱者に与えるなんて古代の聖人みたいなことしてたら、今の世の中あっという間に食い物にされるっつーの」
息巻く様を傍らの彼は、コーヒーを啜りながら睥睨する。
「くそが……爆発、いや――苦しんで死ねばいいのに」
小声で愚痴り始めると、周囲に毒々しい瘴気が立ち昇っていった。床や天井より無数の怪魔が這い出て、その黒霧を貪り喰らいだす。
「七つの大罪――嫉妬、か」