† 二の罪――我が背負うは罪に染まりし十字架(肆)
彼らが二手に分かれた後も、主役を奪われて久しい巨大電波塔から、並んで現場を眺望する二つの影。
さすがに数キロも離れていては、多聞も気づかないようだ。
「ククク……いかがでしょうか? 地球の裏側よりいらしてみて」
鉄骨に腰かけて両足を揺らしつつ、粘着質の笑みを含ませて、群青色の外套を纏った優男が問いかける。
「フン。道化の悪趣味な遊戯だと思ってはいたが、少しは手応えがありそうじゃないか」
隣の威風堂々と佇立しながらも、子供のように軽やかな声の人物は紫煙を吐き出し、さらり、と――しかし、決して眼下から目を離すことなく述べた。
「それは何より。彼以外に、極東の地へわざわざお出でなさった理由ができたのなら――――」
栗色の長髪を靡かせて、座したまま男が続けた途端、稲妻のように殺気が奔る。
「……その減らず口、閉じられんなら手を貸すが」
煙管を口元より離し、横目で見遣る眼光は、刃物の如く鋭かった。
「おお怖い。命がいくつあっても足りなそうだ」
(……そういえば隊長、人外の力に頼ること、嫌ってたなあ――――)
降り始めた雨を、三条桜花は呆然と見つめている。
「彼が生還したことは喜ばしいが、同時に、遠い存在になってしまったことに対して複雑な気持ち――みたいな感じで合ってるかな、現隊長」
「……多聞さんは、いいんですか?」
背中越しに、彼女は尋ね返した。
「過去の事実は変えられない。だが、その意味なら未来で変えようがある――生きてりゃ絶望ぐらいするよ。そこで、そこから、そういうときこそ、この先どう動くかなんじゃないかな」
「またアドラー心理学ですか。変えたくても……その動くための力が、ぼくには――」
「強者ほど力に頼ってはいけない。暴力はさらなる暴力を生むだけだし」
「だから……頼る力もないんですよ、ぼくは! 多聞さんに近づこうとがんばってきたけど、多聞さんにとどくどころか、信雄(かれ)にすら追い抜かれようとしている……!」