† 二の罪――我が背負うは罪に染まりし十字架(漆)
「雨でも、見てたのか?」
「……空が泣いてるみたいだね」
(なんだ、このロマンチストは)
溜息を漏らしつつ、追い越しざまに缶コーヒーを握らせる。
「泣いてたのは空じゃなくて、あんたのほうじゃねーのか」
「……なにそれ。急にポエマーみたいになっちゃって。早速ペース握られちゃってるみたいだけど、きみが言っても似合ってないから」
「いやいや、日米同盟並に固い結束だし」
「どう考えてもあっちがアメリカだね」
背中合わせで悪態をついてくるのは、いつもと変わらぬ彼女だ。
「すっかり元気になったみたいじゃねーか。単純で何より」
「だーかーら、最初から泣いてないもん! あと単純でもないし」
「……太った、とか?」
「うるさい。出生時から50キロ近く増えたけどなにか?」
これは逃げじゃない。仮に逃げだとしても、戦略的撤退だ。そう自分に言い聞かせ、俺は再び歩き出す。
「……嫌いなんだよ、涙は。泣いたとこで何かが変わるわけでもねーだろ」
それだけ吐き捨てて、足早に去ろうとした俺の肩を、小さな手が掴んでいた。鍛えているだけあって、すごい力だ。
いくら何でも強すぎだろ、そう思ったとき、
「待って――――」
ふと飛び込んできた言葉は、意外にもやわらかい響きに包まれていた。
「もっと、話してって……いつもみたいなくだらない話でいいから」
掠れた喉で囁く三条。
「んだよ、俺の話が安定してつまんねーみたいな言い方しやがって。つーか、寂しがるなんて三条らしくねーな。女じゃあるまいし」
「いや女だから」
前言撤回。掠れ声ではなく、いつも以上に低くドスの効いた三条桜花がそこにはいた。
「人間やめても女はやめないもん!」
向き直ると、笑いながら怒鳴る不思議な生き物が約一体。この珍妙な生物は、俺がこんなことになっても、恐れることはなく接してくるということも変わっている。
そんなことを考えているうちに、長いようで短かった運命の一日が終わっていった。