† 三の罪――死神と演武(ワルツ)を(弌)
「速いねー。楽しそうで何よりだわ。けどよ、自然界じゃ弱い方が周りを回るんだぜ」
ルシファー(あいつ)の力か、自分でも驚くほど早く、この俊足に慣れてきているようだった。そうと来れば、向こうが錯乱に勤しんでくれているうちに仕留める。
「まさか……自分から仕掛けるのか!?」
姿勢を前傾させた俺に驚きの視線が浴びせられたが、カウンター狙いではおそらく相手の思うつぼだ。こういうタイプはさらなる加速を残しているだろうから、優速にある彼がここまで様子見した上で、迎撃できるような甘い斬り込みを繰り出すとは考えられない。
「これで――どうだぁああああッ!」
最高速で直進。
それでもスピードに生きる彼は、当然の如く身構える。まあここまでは予想通りだ。勢いを利用して、頭上を跳び越える。
「残念、こっちでしたー」
ロジェの右腕と共に片方の剣は空を斬り、もう一振りは、上体を回転させた反動で勢い余って後ろに流れた。この刀身に着地し、強引な体重移動に魔力推進も加えて、空中から後回し蹴りを見舞う。
「そこまで」
後頭部に渾身の一発を振り下ろされた彼が倒れ込む音より早く、所長による決着の合図が響いた。
「お見事。勝者、日本支部・緑川信雄!」
所長のコールに続いて、拍手が起こる。が――――
「久々に帰国してみれば、今の十二位があの程度とはね」
オリーヴドラブのシャツに、カーキ色のジャケット。そのファッション同様に無愛想な少年の登場によって、一帯は瞬く間に静まりかえった。
「これは茅原さん。遥々ご足労いただき恐縮です」
立ち上がって礼をすると、上座を譲る所長。
「フン、白々しい。まあ俺にも相手がいるのなら受けるが」
茅原と呼ばれた人物は当然のように座り、煙管を取り出した。茅原知盛――妖屠の頂点に君臨する七騎士の中でも、異次元の実力を誇ると聞く。初代一位の所長がこんなにも気をつかうとは、史上最強の妖屠という呼び声も的外れではないみたいだ。
(……しっかしこのガキ、どこかで会ったような――――)