† 三の罪――死神と演武(ワルツ)を(弐)
「久々に帰国してみれば、今の十二位があの程度とはね」
オリーヴドラブのシャツに、カーキ色のジャケット。そのファッション同様に無愛想な少年の登場によって、一帯は瞬く間に静まりかえった。
「これは茅原さん。遥々ご足労いただき恐縮です」
立ち上がって礼をすると、上座を譲る所長。
「フン、白々しい。まあ俺にも相手がいるのなら受けるが」
茅原と呼ばれた人物は当然のように座り、煙管を取り出した。茅原知盛――妖屠の頂点に君臨する七騎士の中でも、異次元の実力を誇ると聞く。初代一位の所長がこんなにも気をつかうとは、史上最強の妖屠という呼び声も的外れではないみたいだ。
(……しっかしこのガキ、どこかで会ったような――――)
いや、そんなわけはない。第一、七騎士は基本的にローマ本部を守っている。俺みたいな入って一年もしない下っ端が見かける機会はないはずだ。そもそも、七騎士の大半は強すぎて模擬戦にも参加しない。なんで今回は顔を出したんだろうか。
「貴殿では何人がかりでもご満足いただけぬだろうよ。妖屠が減ってばかりの昨今。話相手は喜んで務めるゆえ、ご観戦で勘弁されたし」
所長の横で沈黙を貫いていた見慣れぬ男が微笑みかける。帽子を被り、左目を除いて包帯に覆われているのだが、嗤っているということは滲み出るように感じられた。
「不要だ。遥々こんなところまで来てお前なんかと喋るなんて、つまらん戦いがさらにつまらなくなる」
「珍しく馬が合うと思ったのだが、至極残念。若さゆえの勢い等に貴殿が興味を抱かれるとはな。まったく、無茶はできる内にしておくものだ」
そう言い終わると、謎めいた彼は、こちらを射抜くように見据えてくる。風貌はともかく、その不気味なオーラに悪寒がして、俺は目を逸らした。
「いやー、ロジェヴェンに当てるとはたいしたもんだ」
多聞さんに肩を叩かれ、平常心を取り戻す。
「知覚が強化されてるから視えた感じー? 彼の完全上位互換みたいなのがいるんだけど、そういうのには通用しないかもねー」
確かに、あの攻略法を思いついたとしても、今までの俺には、コンマ数秒の合間にやってのけるだけの身体能力がなかった。
やはり、ルシファー(あいつ)の――――
「あなたが対戦相手の二十六位くん……楽そうな相手でよかった」