(地下世界の闇に永住する事は出来ない……。パーティーにも終焉は有る。現実に立ち戻った時、俺を何を為したい? 何を成せる? 泡沫の夢の終わりには、繁華街の宵闇を潜り抜けて独りで歩き出さなければ……)
―そんな苦悩に明け暮れていた矢先の事だった。突如として、自分自身の代弁者の様な存在が颯爽と出現し世間を騒擾とさせ始めたのは……。
その男は、行き場の無い自分の焦燥や葛藤を引き受ける様に、社会へと独力でアジテーションしてくれた。自身の安否すら金繰り捨て、敢えて犯罪者に身を窶しさえして……!
シドはネット上で公開されている通り魔の犯行声明や犯行映像を隈無く収集し、じっくりと飴玉を嘗める様に、幾度と無くその一連の内容を堪能していた。そして犯行直前に通り魔が警察へ送り付けた声明を、又も再生して観ようとする。
『御日柄も良く、崇敬なる糞っ垂れのインダーウェルトセイン政府様。私は国籍番号742617000027番。本日『セブンスプラスティックトゥリーヒルズ・ゲートタワー』に永久就労が決定した一介の男性です。さて、不躾ですが早速本題へと入りましょう。
……私は貴兄等の崇高な理念と治世に拠り決定された強制労働を、丁重にお断り致します。
―想えばいつからか、僕は僕の存在の実証性の無さが怖くて堪らなかった……。先進的で在るとされるこの社会の一視同仁な平等性が、いつしか個を排除する悪平等だと感じ始めた。
あんた等のやり方が悪政なのか、僕が異常なのか、それは未だ解らない……。只、僕はたった独りの、個人に由る独立宣言を此処で宣誓する。
僕は僕の生まれた意味を、価値を掴みたい。僕は僕の生存理由や生き甲斐を、自分自身の手に由ってこそ創り上げたい。ベルトコンベアの工程に載るのでは無く、この眼で物を視て、この両足で道無き道を拓きたい。己だけの生きる証、生きた証を手に入れたいのだ。
僕は僕が何者なのか自分でも解らなくなってしまっていた。否、その不在を自覚し、意志を持とうとする時からが真の人生の始まりで在るのかも知れないがね……。
無色から有色へ僕は変わる。僕だけの色で、この世界を塗り替えて見せる。今から始まる情景から目を逸らすな。捕まる事等最早僕は厭わない』
<僕は僕の生まれた意味を、価値を掴みたい。僕は僕の生存理由や生き甲斐を、自分自身の手に由ってこそ創り上げたい>
ミラクリエ トップ作品閲覧・電子出版・販売・会員メニュー