シドと言う青年も日常や社会に対して順応し切れず、不満を募らせ不良と化した様な一介の若者に過ぎなかった。しかし彼は自分自身でもその憤懣の本質が見抜けず、何処か鬱屈とした日々を過ごしていた。
自分が何に苛立っているのか、自分が将来何を手掛かりに生きたいか、何を人生の使命の様に成すべきかが測れず、内面の指針は常時不安定に振幅し続けていたのだった。
いや、一つだけ語弊は有るかも知れない。……見抜けずにいたのか……? 『憤懣の本質が見抜けず』にいた侭だったのだろうか?本人も何処か心の片隅では薄々自覚していた、そんな側面も有るかも知れない。
意図的に眼を逸らそうとし続けていたのかも知れない自身の内心。自己の生存動機や存在証明を模索する労苦へと、対峙する勇気が湧かない……。そしてそんな自己欺瞞に耐え兼ねて鬱屈としていた、と云う方が適切なのかも知れない。
各所のライブハウスやダンスクラブには連日連夜若者が押し寄せる様に大挙し、日常の憂さを晴らそうと発散に励む。しかしその饗宴の後に、一体何が残ると云うのだろう……? 一時的な享楽の果てにも無関係に、毎日太陽は昇る。
その注がれる朝日を、自分は一身に浴びられるだろうか?『眠らない街』『終わらない夜』……。人々は何時の間にか、こんな言い回しの意味を巧妙に摩り替えて真実と対峙する事を忌避しているのかも知れない。
例えば弱味を曝け出さない、虚勢を崩さない『友人』達との馴合い。自身も乗り遅れない様に話題を合わせ、時には本意でも無く必要性も乏しい様な、電子監察から見逃して貰える程度の下らない軽犯罪に身を染める。また一夜の情事の為に、女の歓心を買おうと巧言令色を弄し行き摺りのセックスに耽る。そして痛飲し泥酔した後や、電脳薬物に依存し地下クラブから外出する事も億劫な侭で朝を迎える度に、シドは冷厳な現実を突き付けられるのだ。
(……地下世界は底無しの闇ではない……。此処が底辺だったと云うだけの話だ。
終わらない夜等は存在しない。今日と言う扉を叩こうとしない者に、明日と言う扉等は永遠に開かれはしない。少なくとも、今日の自分は真の意味でこの朝日を浴びる事は出来ない……!)
一夜の現実逃避。非現実から帰還した時には、逃避した分だけ現実が遠のく。結局の所真実から眼を逸らす事が更に自身の首を絞めていると、シドも薄々自覚はしていた筈なのだ。
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