・第六章・『仮面剥奪~アノミーの舞踏~』
―そうか、そう言う事だったのか……! 何某かの噂や都市伝説は流布されていたが、実際に政府の目論見はここ迄波及し始めていたのか……!! だとしたら、僕の決起は最早個人的事情の範疇で収まるものではない。
当初、僕は自身の葛藤や模索から通り魔を敢行しただけだった。しかし、もし事前にこの一連の枢密へ触れていたとしたら、動機に義憤も入り混じるとは云え起こす行動と結果は現在と同様だったかも知れない。僕はどちらにせよ、いつかは重大犯罪者として世界と対峙せざるを得なかったのか……?
僕は背凭れに身を預け、暫しの間放心していた。最早、無骨な椅子の堅い感触すら気取られる事は無い。重厚で閉塞感漂うそんな防音防壁の地下室にも、時折大音響の余韻として微細な震動が降りて来た。真夜中のダンスホールで踊り明かす若者達の狂騒や笑い声も、さざめきとなって微かに耳朶を打つ……。
眠らない電脳都市の終わらない夜。地上に座する不夜城が夢幻の夜の中で最高潮を迎える頃合い。地下に潜伏する僕は只一人、仮面舞踏会の舞台裏を覗き見る様に、世界の真実へ触れてしまっていた……。
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・第六章・『仮面剥奪~アノミーの舞踏~』
都心に位置し、線路交通の要衝でも在るメトロコミューンは今日も活況を呈していた。硝子張りの硬質な建造の内部には百貨店、カフェ、本屋、土産物屋等が混在し、電脳未来都市に於ける玄関としての責務を果たすだけの利便性、洗練された瀟洒な空間を提供している。
そして種々雑多な人間達が行き交う雑踏の中、通学中である一介の大学生が、自動改札や切符自動販売機に隣接される無料充電装置コーナーへと何の気無しに赴いた。
ヘッドギア端末は内蔵電池の独力でも悠に一ヶ月間は電力耐久を維持する。しかし政府機関が人民への事故防止や福祉性を徹底して追求した結果、政策の一環として交通機関の要衝へは無料充電装置コーナーが義務的に設置される事となったのだ。前時代で例えるなら路傍に点在する公衆電話や、要所で設置されている携帯電話の無料充電コーナーの様な物だろうか。
青年は電車の到着時刻を見計らい、ヘッドギア端末の電池残量を満了にして置こうと充電端末の液晶操作パネルへ指を伸ばした。画面上では、公的機関の仕様らしく安心感を全面に押し出す様にと、制服姿で清潔感溢れるCGキャラクターの女性が登場する。