その言を釈明と取ったのか、確認の為にと後続の大柄な男性が先頭のビジネスマンを押し退け、憮然とした態度の侭で機械に接触を試みる。そしてその一瞬の後、後方の人間達も全体の異状を察知しその場でざわめき立つ……。高度な科学技術力を誇る電脳未来都市インダーウェルトセインの公衆端末が、一斉に接触障害を発生させる等前代未聞の事態だ。
この侭一般市民が機械を前に試行錯誤しても、一向に事態は収拾しまい。右往左往する後列者達を他所に、青年は駅員へ報告しようとメトロプラザを小走りに行き始める。
青年は駆け行き現場から遠退きながらも、混雑と騒乱の声は募る一方だと背後から感じ取っていた。彼は段々と、丸で全ての異変が自分自身の過失かの様な錯覚を覚え、灰を嘗めた様な後味の悪い原罪意識すら抱き始めるのだった……。
―しかしその刹那、彼は不意に一つの憶測が火花の様に脳裏で着火された事を感じ、思わず立ち止まる。そして自身のその想像に衝撃を受け、反射的に現場へと頭を振り返った。
呆然自失と立ち尽くす中で、騒動の渦中にある現場の怒号も、どこか空々しい調子で青年の耳を通り過ぎて行く……。青年はあくまで、偶然異常事態の現場へ居合わせたに過ぎない一介の大学生だった。しかし彼の胸中で蟠る想像と疑念は、警察機関や各種メディアでさえ未だ察知していない事実と、次なる予兆の核心を捉えていた。
(最近のデジタルマスカレード通り魔事件……。例の事件とこの騒ぎにも、もしや何か関係が有るのでは……!?)
*
外界の漫然とした小春日和を他所に、政府中枢機関の一翼を担う都庁内部は未曾有の恐慌状態へ陥っていた。
・障害発生のお知らせ・
平素依りインダーウェルトセイン無料充電端末装置を御利用頂き、誠に有難う御座います。
本日、都心部メトロコミューン内にて提供中の充電端末機全体に接触障害が発生しており、ヘッドギア端末の充電処置が不可能な状態に陥っております……。原因に付きましては現在早急な調査を行っております。御利用中のお客様には大変ご迷惑をお掛けした事を、深く御詫び申し上げます。本障害の詳細に関しましては、以下の頁を御確認下さい。
※ 現在、複数の方法にて正常な状態へ復旧出来る様作業を続行中です。
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