プロローグ

 無数の星々と、漆黒の闇に包まれた空間の中を不思議な物体が高速で移動している。
 薄緑色の粒子を放ちながら一直線にある場所を目指すそれは、傍から見ればそれはそれは綺麗なことだろう。その姿からはそれが宿す本質を見抜くことは難しい。
 濃い緑の外殻に、鋭い先端とふっくらした後ろ。地球上の物質で例えるのなら、それは『種』と呼べる物だ。
 『種』は然るべき場所にて発芽し、成長する。
 そう、この『種』も自らが発芽出来うる場所を目指して動いているのだ。
 銀河系の中、煌々とその身を燃やす恒星:太陽を越え、『種』が進むその先には、青と緑、そして白で彩られた綺麗な惑星がある。



 その頃……2017年4月7日22時地球、アメリカ。(日本時間:4月8日14時)

「おい! どうなってる!」

 あたふたとたくさんの人が蠢く部屋の中、怒鳴りながら入ってきたのは老成な男だった。言語は英語。当然のことながら、周りに居る者全員が英語を使っている。

「地球に……地球に! 正体不明の物体が迫っています!」
「なんとかしろ!」
「それが……高速すぎてどうしようもありません……」
「そんなっ……」

 声を大きく、怒鳴っていた男が愕然とした表情を見せる。所詮、彼は指導者。人々を統制することはできても、何か特別な技術を持っているわけではない。宇宙などから飛来する何かから世界を救うなどもってのほかだ。
 自分の無力を呪う。怒鳴ってもどうもならないことを知っている男は、今この瞬間にも地球へと近づいている物体を映したモニターを睨んだ。
 その中には、緑色の粒子で出来た尾を引いた、『種』がある。

「なぜこんなことになるまで……気が付かなかった……」
「いきなり現れたんです。ちょうど、冥王星の太陽周回軌道上に……それが昨日のことでした」
「そんな馬鹿なことが……」
「えっ……嘘だろ!」

 白衣を纏った研究者と、スーツを纏った男。2人が周囲を気にしない問答をしていたところに、1つ大きな声が響き渡る。

「どうした!」

 当然そうなれば、そこにいる全員が大声を出した男に注目を向ける。

「あれを……」

 さっきまでは椅子に座って、目の前のキーボードを操作していた男が、壁一面に広がるモニターの1つへ指を向ける。そこはさっき、『種』が映っていたモニターだったのだが……。

「無い」

 そう、『種』が消えた。
 モニターには小さな光と、漆黒の空間だけが映っている。

「どこ行った!」
「そんな……」
「早く言え!」
「大気圏に、突入しました」

 その言葉を最後に……誰の声も他の人に届くことは無くなった。
 轟音が全てを支配したからだ。
 空から聞こえてくる、巨大な物質が大気を切り裂く音。もし、彼らが空を見ることができていたのなら、なんとかして声を届かせようとする無駄な努力などしなかっただろう。
 そのあまりの大きさに、そして……

 空中で開いていく『種』の様子に、声をだす余裕も無いだろうから。



 ともかくこの日、世界は変わった。

相羽 桂
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相羽 桂

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