Ⅱ―ⅹ はじめての育児
ジルから受け取ったミルクのボトルを布に包み、広間へ顔をのぞかせたキュリオ。
すると、すぐに家臣のひとりが気付き、足早にキュリオの元へとやってきた。
「よかった、キュリオ様!お部屋にいらっしゃらないのでどちらにいかれたのかと…」
「ちょっと用事があってね。ジルの所に行っていたんだ」
小さな布に包まれたボトルを持ち上げて見せるキュリオの仕草にほっと溜息をついた家臣は、食事の用意が整った席へとキュリオを案内する。
「なるほど!料理長のところにおいででしたか。彼に御用があるならば私どもが伝えに参りますので、いつでもお呼びつけくださいませ!」
そう言って振り返るこの男は、人好きする笑顔が目元に笑い皺をつくり、彼の内面が人相にそのままあらわれているような温厚で気の優しい家臣だ。
ジル程ではないが、中年と呼ぶにふさわしい年頃のこの男ともキュリオは付き合いが長かった。それだけ長くこの城とキュリオに仕えているということだが、彼らはキュリオのように命が長いわけではない。人の一生分の時間が過ぎてしまえば、やがて死が訪れ…永遠の別れがくる。