Ⅲ―ⅱ 小さな変化
大理石でつくられた巨大な広間の中を移動すると、やがて使い慣れたキュリオ専用の食卓が見えてきた。そこで家臣は頭をさげ下がっていく。
真ん中には銀の燭台に美しく彫刻されたキャンドルが輝き、その光が照らしているのは人の世界でいうバロック調の椅子とテーブルだ。キュリオは特別な宴や会食以外、誰かと共に食事をとることはないため椅子はひとつしかない。
さらに近づくと、にこやかにキュリオの椅子をひいて腰をおろすよう促すのは給仕担当の侍女だった。
「待たせたね」
使い慣れた椅子に腰を落ち着けると、ほどよい弾力が肌を押し返し主の体にぴったりと馴染む。そして、ほっと一息つくと…食前酒にはじまり、ジルや他の料理人たちの自慢の一品が次々と運ばれてきた。
まず、いつものように食前酒に手を伸ばすと…
「…しばらく酒は控えたほうがよさそうだな」
と小さく呟き、伸ばしたその手を水の入った別のグラスへと移動させるのだった。