プロローグ
握りしめた両手が、緊張と興奮でぬるりと汗ばんだ。
よく、走馬灯のように記憶がよみがえるとかいうけど、あ、きっと今年も後輩が、送辞でそんなことを言うはずだ。
心臓がどきどき……なんてのは予想に反して全くなくて、ただそこに広がる静寂にしっとりと浸りながら、ノドが渇いていくのが分かるのである。
「優良生徒表彰――」
ごくり。と、粘るような生唾が、うんざりする程重く感じた。
そして、俺は、腹に溜め込んだ声を一気に吐き出すように、
「はい」
と、一声、つかの間の光を浴びるのだ。