進学クラス

 テストという存在は、高校に入ってから一層憂鬱なものになった。
 単にだるいってのもある。けど、そうじゃなくて、むしろ点数は中学のころに比べるととんでもなく上がってる。
 「そっちは何点?」
 隣から、お決まりの質問が飛んできた。
 「九十四点」
 バツの箇所を数えながら俺が小声で答えると、そいつはいつも通り顔をゆがませた。
 「うっわー。なんなん?」
 「なんなんて……この教科は、まあ、頑張った方だから」
 ああ、めんどくせ。
 困ったように笑うことができていればいいのだが、あいにく表情が硬くて伏せるしかない。
 九十点以上取れて内心ほっとしてるけど、このやりとりが本当に面倒くさい。

 進学クラス。
 定員割れ、偏差値の低いこの高校で、進学クラスを希望したのはわずか十人。
 俺は、近くの頭のイイ高校を諦める代わりに、少し離れたこの高校へ「せめて学年の上の方の成績でいなさい」との条件付きで入学した。
 その進学クラスを構成するのは、ほとんどが親に入れられただけってな奴らで、勉強の意欲なんてあったもんじゃない。
 普通クラスに比べれば、勉強量は多いんじゃねえか程度。
 そんな中途半端に負けたくない欲だけが強いこのクラスで、俺は定期考査の一位という順位を三年間独り占めにしてきたのだ。

 んで、今回のこのテスト。
 三年の三学期、学年末考査で、俺はいよいよ一位を確信した。
 ああ、三年間頑張った。みたいな気持ちに浸りたかったのが本心だが、やっぱり順位を気にして、いかにも不服そうにこっちを見てくる若干名の上位層が……うざい。
 いや、ライバルだと思ってくれるのは構わないし、現に俺も一位をキープしたくてこのテストを頑張ったようなもんだから、むしろ感謝すべき相手だ。
 何が気に入らないって、
 「ろくに勉強してねぇだろが」
 家に帰って、高校生活最後のテストを親に手渡して。奴らのテスト期間中のチャットアプリの内容を見下ろしながら、そう毒づいた。

『もう進路決まってるし、今回あんまやる気でないww』
『正直、いつもよりとりかかるの遅れたわ』
『三学期の成績、ぶっちゃけ良くても意味ねぇだろ(笑)』

 スクロールの指が、文字の上を通る度に、ちくちく刺されてるような感覚。
 競う気、あんのかないのか。
 「ねぇなら、点数であーだこーだ言うんじゃねぇよ」

『確かに、今回は入試には関係ないけどな』
『お前はそういうこと言って、いい点取んだろ?』

 指が止まる。てか、こんなん見てることがばかばかしい。
 俺が点を取れば、誰かが俺より上か下かにつくのが順位というもので……。
 「いいじゃん、俺と違って頭良いんだから」という言いわけ野郎の一言が、腹の底に保とうと必死な平常心を波立たせる。
 俺の頭の問題じゃなくて、お前の努力不足だろ――と吐きかけて、へっ……と笑う。

 ぐつぐつ、ぐつぐつといつまで経っても煮えたぎる腹の中は、それでも自分だって、点を取るための「その場しのぎの努力」なのだと、蓋ができない。
 おかしい。
 点を取れば、嫌味を言われる。けど俺は、今さらそれ以下に下ることをプライドが固く許さない。
 スマホの画面を閉じると、込み上げてきた何かを吐き出すように、むせた。
 俺の三年間、学校に認められるように上っ面だけを、何が何でも繕って。
 嫌われてたわけじゃないけど、テストになるとコロッと理不尽な態度をとる友人たちとつき合って。
 意地だけが俺を、テストで点を取ることに仕向けて。

 卒業という文字を前にして、
 「ようやく」
 と、解放への光が、淋しさの前に滲み出た。

阪マキホ
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阪マキホ

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