朝のランニングコースを通って、学校へ行く。
肌がピリつく独特の寒さがある早朝と違った空気の通学路は、なんとなく爽快感がある。
「おおーい、伊月ぃ!」
と、聞き慣れた声に振り返ってみると、なにやら慌ただしく駆けてくる悪友の姿が見えた。
朝から元気なヤツだなぁ、と内心で苦笑して、やんわりと返事をする。
「おー。真か、おはよう」
だぁああ、と大仰な溜息を吐いた悪友――箕谷真は、なにやらニヤニヤとした笑みを浮かべていて。
「女が出来たんだって!?」
あまりに唐突に言われて、思わずはぁ?と驚く。
しかも通学路のど真ん中で、それも大声で言ったものだから、自然と視線が集まる。
「流石は人気者」なんて茶化している真をつかんで、さっさと人目のないところへ向かう。
「おいちょ、待て!からかっただけだろ、おいぃッ!?」
「ちょっとうるさい……そんな話、どこで聞いたんだ?」
はぁ!?という悪友の素っ頓狂な声に、これは地雷を踏んだか、と内心で焦る。
え、マジで?という表情に、背中に冷や汗が這っていく。
「あー……いや、なんだか楽しそうに見えたから、女でもできたのかと思っただけで」
「……そんなに違うのか?」
思わず顔を触って確かめてみるが、普段と変わらないはずだ。
そんな様子を見ていた悪友は、お前は分かりやすいな、と苦笑交じりに話す。
「で、かわいいのか!?」
相変わらずの調子に参ってしまいそうだが、自分から明言してしまったような手前、はぐらかすのも難しい。
どこかへ逃げられるのなら逃げたいし、下手をすると背中を向けて全力で走るまである。
「そうだな……人形みたいというか、なんだろな」
「っかー!語彙力ねえなぁ!もっとこう、あのしなやかな髪が、とかねえのかよ!?」
そんなことを事細かに言えば、どう詮索されるか分かったものではない。
それに、どう説明したところでマンガの読みすぎだろ、と笑われるだけだろう。
「ま、期待はしてねぇんだけどさ」
「どういう意味だ、それ」
この歯に衣着せぬ物言いは嫌いじゃないが、どうも不快なときがある。
溜息を吐き、どうせついてくるであろう真を置いて通学路に戻っていく。
「それにしたって、もう秋も半ば……それにお前が振り向くなんて、よっぽどの美人だろ?」
なあなあ?といつもより食いつきの強い悪友を放っておくワケにもいかず、渋々と言葉を選ぶ。
「まあ……そうだな、可愛いよ」
美人、というよりはそっちの方が似合う。
年のせいもあるのか、どうも子供っぽいというか、危なっかしくて、守ってやりたくなる。
言ってしまえば庇護欲なのだが、そんなこと言ったら、この悪友がどう反応するのか、想像するだけでも恐ろしい。
「そうか、爆発しろ」
「は、はぁ……」
どうにも振り回されっぱなしだが、そろそろ反撃でもするとしよう。
「ところでお前、付き合ってなかったか?」
「……え?何のことでございますか?」
その姿を見るに、ウソが下手とかそういうレベルを超えていた。つまるところ、コイツは隠し事が出来ないってくらい、酷い。
視線の泳ぎ方と言い、言葉の調子と言い、なんとも言えなくなる。
「いや、その後どうなったのかと思って」
「い、いや、蓮とは……その、友達の関係で?べ、別に付き合っては」
もう見ているだけでお腹いっぱいなので、放置してさっさと学校へ向かう。
待ってくれー!と急いで追ってくる真を無視して、どうにか遅刻直前に到着した。
さて、今日の授業は何だったか。
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