どれだけの非日常が起こったとしても、日常というのは再開されていくものらしい。
ここから見える空は、今日も青い。
毎朝の日課となっているランニングを終えて、汗を流すべくシャワーを浴びる。
言わずもがな、鏡にはカーテンのような覆いがあって、どうにも苦笑してしまう物々しい雰囲気があった。
「さて、今日も頑張ろう」
ぐっと伸びをしていると、どことなく眠気を引きずったような白雪が目を覚ましてきていた。
「おはよう」
「はい……ふ、ぁ。おはようございます」
なんて大きな欠伸を眺めて、朝も早い時間だということに気づく。
それよりも驚くべきは、なによりも自分だった。
夕食の後、白雪は行く当てもないと聞いて、ここで暮らしたらどうだろう、と提案したのは自分で、その時を思い出すだけでも気恥ずかしい。
「空気が澄んでいて、良い天気ですね」
「確かに、今日の天気は珍しいね」
なんて、ふと外を見やって、晴れ渡る快晴であったことを思い出す。
雲の一つすらない青空に、なんとなく運命のようなものを感じてしまう。
そうしてしばらく呆然と青空を眺めて、そういえば、と白雪の方に向き直る。
と、視線がぴったりと合って、思わず目線を逸らしてしまった。
「あの……」という落ち着いた小さな声に、心の中で溜息を吐く「朝、私が作っても、いいですか」
思わぬ申し出に、違った意味でどぎまぎとしてしまっているが、ともかく落ち着くとしよう。
「えっと、それはありがたいんだけど……なんていうかな」
何と言ってあげるべきなのか。
いや、白雪の料理を疑っているワケではないのだ。
ただしとても、本当にとても機械オンチだということが、どうにも心に引っかかっていた。
あれは不可抗力だったとしても……って、何を思い出しているんだボクは。
「それじゃあ、何かあったら困るし、ボクも手伝うよ」
何が出来上がるのか、少しだけ期待して。
やや危なっかしくも見えてしまったけど、やはり手慣れているようで、簡単ながらフレンチトーストと少しの野菜が朝食となった。
緊張のせいなのか、なかなか喉を通らなかったけれど、とても美味しいものだった。
「あっ。そういえば今日は平日か……学校に行かないと」
「学校?」
皿を洗いつつ、不思議そうに白雪が首をかしげていた。
「みんなで勉強する場所だよ。とは言っても、白雪は……」
包み隠さず行ってしまえば、まず無理だろう。
手続きは分からないが、最低でも住民票とかいうものが必要で、入学にはお金が要る。
そんなもの、どうしたって高校生でしかない自分には用意できそうにない。
だから、聞いてみなければなんとも言えない。そんな状態だ。
「私と一緒にいるのは、良くないと思うけど」
「えっ、そんなことはないよ」
まあ確かに、男子からは恨みがましい視線で見られることだろうけど。
それとこれとは説明すれば済んでしまうような話で、そこまで重く見つめる問題でもないだろう。
心配するようなことは何もないはずだ、とも言い切れない部分がある。
鏡を見ると、とても怯えてしまうこと。
ただ怯えているようにも見えないし、異常なほどの怖がりようだった。
……それに、気になることも多い。
「悪いんだけれど、今日は、留守番を頼んでもいいかな?」
「いつ、帰ってくる?」
「そうだな……あんまり遅くはならないと思うけど」
そこまで長い時間をかけるつもりはないが、どうなるのかは分からない。
白雪の件もそうだし、ボクの方も進路の関係で忙しかったりする。
今日のスケジュールを考えながら、さて、と時計を確認してみれば、まだ7時を回ったばかりだった。
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