プロローグ
あまりのことに、時間を忘れてしまっていた。
行きさえ止めてしまったわずか数秒さえ、とても長い時間のように感じている。
夢でも見ているのか、と頬を抓ってみても、痛みはあった。夢ではない、と取り留めもないことばかりが浮かんでは消える。
だって、そうだろう。
本から少女が飛び出してきたなんて、こうしている自分だって未だに信じられないのだから。
「……キミは、誰だ」
だから呆然と、そう呟いていた。
なんの捻りもない、そんな問いとも言えないような言葉。
ただ、驚いていたのは自分ばかりでもなかったようで、その少女もどこか、恐る恐る、こちらを見つめていた。
……いや、驚くよりも早く、綺麗だと、そう思ってしまっていた。
かれこれ数秒、固まったように見つめ合って。
「名前は、白雪……です」
そんなたどたどしい言葉に、ようやく現実というものを理解していく。
しらゆき……白雪。何度かその言葉をかみしめて、目の前の少女に、その名前を当てはめる。
雪のような肌と、その髪。それに加えて、鮮血のように真っ赤な瞳。
なるほど、と心の中で呟いて、どうにか落ち着きを取り戻してきた。
「よ、よろしく?」
何がどうよろしくなのか、もう何がなんだか分からないが、とりあえず言葉は通じるらしい。
小さく差し出された手を握り返して、ボクと白雪は出会った。
冷たく映っていた少女の手は、年相応に柔らかくて、暖かいもので。
どこかぎこちない笑みが、とても印象的な少女だった。