megalomania Ⅰ
広い広いこの世界で、私という一つの限界は小さすぎる。
この広い空さえ飲み込んでしまう頭でさえ、世界の全てを語りつくすには足りない。
空の青、海の青。そうして太陽の光に浮かび上がる建造物の輪郭。世界に溢れるのはそんな境界線だ。
それは希望と絶望に近しいような。あるいは超えてはならない一線に近しい気さえしてくる。
ここの景色は、変わらない。
「もし神様がいるんだとすれば、そいつはそんな境界さえ飛び越せるんだろうな」
なんて少し哲学的なセリフを呟いてみて、屋上からの景色を楽しむ。
どこも同じようなものだが、ここへ来るには鍵が必要になるそうだ。
そんなもの、ちょっとした乙女のたしなみ……まあ言ってしまえばヘアピンでのピッキングなのだけど、これが上手くいった。
軽く犯罪行為。それこそ不法侵入になるのだろうし、ここから飛び降りでもすれば、責任問題で学校が立ち行かなくなるだろう。
「ま、いくら私でも、それはしないけどさ」
わざわざフェンスをよじ登るのも好きではないし、どうしてここに居るのかと追及されるのも面倒だ。
それに、私はこの場所を気に入っているのだ。まさか、それを見捨てるような真似をするはずがない。
「あーあ、どうせなら、このままサボってしまうのも手なんだけどなぁ」
もうすぐ、今日という日がゆっくりと、着実に始まろうしている。
少し下を見下ろしてみれば、そこには談笑しながら余裕をもって登校する人、大慌てで遅刻を回避しようとする人。
もはや諦めている人や、部活に花を咲かせている連中の全てが、この世界に照らしだされていた。
校門に突っ立ってる先生の姿を見ながら、太陽を背にして、私は一人で笑みを浮かべる。
「いつか、あの空に。あの自由に、届く日があるんだろうか」
目の前にある青は、どこまでも広大に。
世界を照らす光は、どこまでも明確に。
そしてこの世界は、いつまでも同じような姿をしているのだろう。
「あー、空は良いもんだねぇ」
名残惜しさを残して、私は新学期へ向かうべく、踵を返した。