megalomania ⅠーⅠ
さて、新学期が始まる。
私はしっかりと屋上に鍵をかけて、バレないようにさっさと教室に向かっていく。
とはいっても、今日は新学期の初日でもあるし、顔なじみとちょこちょこ遭遇してしまう。
まあ、出くわしたところで、軽い挨拶をしてそれで終わりなのだが。
「げっ、せ、世界か」
「ん……?あー、豊瀬クン?おはよ」
ただし、私という人物にも色々な事情があったりする。
特に気にもしていないのだけど、高校生男子というヤツは何を思ってか、私につきまとおうとする人が多い。
で、目の前にいる野球部の同級生は、確か告白をしてきた気がする。
俗っぽく言うなら、ふったのだけど。
「しかしさ、アンタ、なんでげっ、なんて言う?アニメの見すぎ?」
「あ!?っち、ちげーよ!べ、べつにアニメなんて、週に三回くらいしか……」
見てるじゃん。と心の中で突っ込みを入れて、少し不満そうなコイツの後をついていく。
「なんでついてくんだよ……」
そう恨みがましい目で見られるけど、何か悪いことをしているのだろうか。
そんなに邪険にされるほどでもないと思うのだけど、顔が赤くなっているのだから、少しばかりからかいたくもなる。
「いや?私の教室、こっちだからさ」
ずい、とそっちを指さして、じゃあね、と心の中で舌をだす。
これだから、どうも人をからかうのがやめられない。
自分でこんなことを言うのもなんだが、私は自由奔放なクセに容姿に恵まれているそうだ。
とは言え、通学路で堂々とナンパされたり、熱烈に色々とプレゼントされたりもしたが、不要なので全部送り返している。
実用的でない化粧品やら私服に、料理が出来るというヤツには同じ料理をし返したり、甘いものはありがたく頂戴したり。
まあ、ともかく色々手ひどくやった。やったのだが、どうしてか良い結果には向かわなかった。
「何が悪かったんだ……」
いつもの元気に、少し影が差す。
どうせしばらく放っておけば考えなくなるが、一つの悩みには一つの解決策を考えておきたい。
そんなことをぼんやりと考えていると、新学期で色めき立っている教室に、先生が入場してくる。
気をつけ、とも言わないのに、その空気が少しだけ引き締まったような、そんな感じ。
ただ、机に座って談笑する男子やら、新しい恋愛映画の話をしている女子は、あまり気にしてはいなさそうだったけど。
「さ、席に着けよー」
そうして朝の予鈴と共に、ホームルームが始まる。
かくいう私は机に突っ伏していて、今から休憩に入ろうとしていたのだが。
「みんな驚かずに聞いてほしいんだが、今日から新しい子がくる」
そんな先生の第一声に、生徒ががやがやとしだす。
女?それとも男?そんな感じで、教室は賑やかになっていく。
出来るなら女の子が良いなぁ、なんて少しだけ考えて、朝の登校風景を思い出す。
あの時……遠目だったから気のせいかも知れないけれど、誰か、こっちを見ていたような気がしていた。
どうせ気のせいだ。大方、その生徒が学校を見上げるなりしていたんだろう。そう思うことにして、寝入ろうとする。
「さ、入っていいぞ」
しかし、いつの間にか転校生の説明を終えてしまったらしく、タイミングを逃してしまう。
まあ、顔くらいは見ておこう……こうなったら野次馬根性だ。
そうして入ってきたのは、何か鋭利な印象を受ける少女だった。
「……へぇ」
なんとなく、その動作の一つ一つが洗練されすぎている、そんな印象を受けた。
均整のとれた顔に、少し粗く切ったような灰色に近しい銀髪と、切れ長の瞳。
そんな立ち振る舞いに、思い当たるモノがあった。思わず身体を起こして、その紹介に耳を傾ける。
「リーズと言います、よろしくお願いします」
何やら男子は楽しそうにしているし、私はいつも通り、自由屋に徹しているとしよう。
そんでもって、今日も元気に、この一日を出来る限りに楽しんでやるのだ。
転校生なんていうシチュエーションを、まさか逃す手はない。
「ま、休み時間に接触するなんて、結構難しそうなんだけど」
ぐっ、と身体を伸ばして、そういえば隣の席が空いていることに気づく。
あ、これ勝った。
そんなことでニヤりと心の中で笑って、分かりやすくフラグを立てたのだった。