ハッカ飴
「ありがとうございました、よければお一つお口直しに如何ですか?」
「あー、じゃあ、一つ」
ハッカと書かれた個包を一つとる。一緒に飯を食っていた同僚も俺に倣って一つ取った。店を出てから同僚は早速その個包を開ける。半透明の飴は焼肉の匂いで充満している口に放り込まれた。
消臭剤…と同義って事なんだろう。
口直しなんだから、口ん中を食う前の状態にするのがその役目だが、俺としちゃ、余計なお世話だ。
「お前は食わねえの?」
「あんま好きじゃねえんだよ、ハッカ」
「何で?辛いのダメだっけ」
辛味は別に問題じゃねえ、寧ろ辛いのは好きだ。
「さっき辛口だれで食ってただろうが。辛いのは食えるよ。もっと根本的なトコだ」
「根本的なトコ?」
同僚が首をかしげる。男のてめえがやったって何も嬉しくねえぞ。
「お前は何でハッカ飴食ってんの?」
「え、だって気になるじゃん、口臭とか」
「女子か」
「うるせえ」
そう、そうなんだろうな。そのつもりで食ってんだろうな。
「でもさ、それって意味あんの?」
「え、ねえの?臭い変わるじゃん」
「それはさ、口ん中の表面がハッカに変わってるだけじゃん。一枚皮剥いたらもう焼肉だろ?」
「そりゃぁ…まぁ…」
「だから、根本的な解決にはなってねえじゃん」
そう、言って仕舞えば化粧した女子と何ら変わりない。
表面を化粧品やらなんやらで塗ったくって元がわからなくしてるだけだ。化けの皮に等しい。それが剥がれた時の絶望感よ。
「でもさ、繋ぎがあるかないかって大分ちがくね?例え表面だけでもさ、帰るまでの間だけでもなんとかしてくれりゃ、歯磨きとかで根本的な解決ができるわけだろ?」
「…お前がまともな事言ってる、頭大丈夫か?」
「煽りすぎぃ…!」
「冗談だ。確かに、そういう為にあるんだろうし、そういう為にしてんだろうけど…、考えても見ろよ、俺らこれから帰るじゃん」
「おう」
「今何時よ」
「0時近く」
「今何月?」
「1月」
「誰かに会うと思うか?」
「いいや?」
「お前鼻の穴クッソ寒くない?」
「寒い、むしろ痛い」
「そういう事だ」
「なるほどな」
同僚が納得したところで、俺はポケットにハッカ飴を突っ込んだ。幸い雪は降っちゃいないが、何もしてなくても凍えそうな寒さだ。
そんな時にだ、ハッカ飴なんて食ってみろ、家に帰る前に鼻のも喉もイカレる。
「でも食っちまったもんはしょうがねえだろ」
「吐き捨てりゃいい」
「やだよ汚ねえ」
「じゃあどうすんだよ」
「そうだな…」
同僚は少し悩む素振りを見せた後、人差し指を上に突き立てた。
「帰ろう」
「帰ろうか」
最初からそのつもりだっつーの。