あの日の空。
「夢」
黒板に丁寧に書かれた文字を指さしながら、先生は僕らの将来を問う。
「警察官」
「消防士」
「歌手」
「医者」
次々に黒板に書かれていく、友人達の将来の夢と、無垢な希望を語る楽しげな会話。それに参加する事の出来ない僕は、黒板と先生から目を逸らした。
夢を持つ事がそんなに大切なのだろうか。僕には、少しも理解出来ない。
小学生の頃は、バスケットボールが大好きだったから、夢を聞かれれば
「プロのバスケットボール選手」
と答えていた。
ただ、それは〝楽しいから〟という理由だけで、〝将来それで食べていく〟などという立派な考えは、勿論持ち合わせていなかった。
中学生に上がり、二回目の練習試合を終えた時、僕の目指していた夢は儚くも脆く散り始めた。
自分よりも上手い人が何十人もいる。もし僕が必死に頑張ってプロになったとしても、この人達はあくびをしながら余裕な顔をして同じ舞台に上がってくるのだろう。そんな考えを持ってしまった瞬間に、大切だった唯一のその夢は息を引き取った。
授業が終わった後、僕は先生に呼び出された。理由は、何となく分かっている。
「何か夢は無いの?どんな小さな事でもいいんだよ」
またこの話だ。中学三年生になっても聞かれてしまうのか、と少し呆れてしまった。
「ごめんなさい。無いです」
返す言葉が見つからないのか、黙り込んでまった先生に向けて、逆に僕から質問を投げかけた。
「先生は、本当に先生になりたかったのですか?」
更に黙り込んでしまったかと思ったら、不器用な笑顔と共に一言呟いた。
「んーん。違うよ」
「それなら、どうして先生を目指そうと思ったんですか?」
「……こんな話、本来は生徒にしちゃダメだと思うんだけど、特別に教えるね」
今までとは雰囲気がガラッと変わった先生の顔に気付き、僕はゆっくりと息を飲んだ。
「私が先生になった理由はね……」