心の中
明日香が墓参りを済まし実家に戻る頃には
日が沈みそうになっていた
久々にさす鍵穴
ガチャガチャと硬くなった扉を回すと
軋みながら扉が開いた
もあっとした温まったい空気とたまった埃で
息苦しかった
ああ
早くすべての窓を開けなければ
今夜は寝られそうもない
明日香は急いであちこちの部屋の窓を開けた
やはり隣街にホテルをとればよかった
と少し後悔
明日香は両親の仏壇に座り
薄汚れてる写真立てを見つめた
最初に死んだのは父だった
趣味で釣りをしていて川に流されて命を落とす事故だった
明日香はまだ小学五年生で
一回り年の離れた兄がいた
しかし兄は都会の大学に出ていてしまって
すぐには戻れなかった
もともと父は年も取っていたので
フッとした瞬間に川にでも落ちたのだろうと
お通夜の席で親戚たちは話していた
その時の母は憔悴しきりで
泣いてばかりだった
兄が来れたのは葬儀当日だった
やっと来てくれたと安心したのもつかの間
兄の第一声は
「だからいい加減釣りはやめろってあれほど言ってたのに」
憎しみを込めた冷たい言葉だった
そして母にも
「母さん言っておくけど俺はここには戻らないよ」
と…
明日香は
兄は何故そんなに父を嫌うのか
街を嫌うのかわからなかった
確かに頑固だった父だが
私には優しくいい父だった
そしてそれから四年後母が亡くなった
死因は不明だった
田舎の町医者が最期を看取ったが
心不全という形で生涯を終えた
その時兄は仕事の為やはりすぐには来れず
葬式の朝やっと葬儀場に現れた感じだった
母の棺を見た時の兄は無言だった
「明日香…迷惑かけたな…」
とポツリ
父の葬式以来の帰郷だった
それ以来兄とはほとんど連絡を取っていない
一度だけ大学で都会に出ると行った時会ったきりだ
今度の転勤の事もとりあえず伝えておかなければなと思うが
中々その気にならなかった
「掃除機掛ければ少しましになるかな?」
明日香は
何年も締まってあったであろう
古い緑色の掃除機を押入れから取出すと
息で埃を吹き払ったコンセントに差し込んだ
ブオオオ…
少し吸い込みが悪いがまだまだ使える
薄暗くなった部屋
部屋のスイッチをいれると
パッと部屋が明るくなる
濡れた雑巾も必要だ
適当な布巾を手に取ると洗面所に向かい
蛇口をひねった
久々に放流される水は
嬉しそうに跳ねていた
そう
これがまたさらに明日香を悩ませた
あんなにここを嫌う兄なのに
水道や電気などの基本料は払い続けているのだ
誰も住んでいないのに
誰かの為のように