序
「嘘でしょ?」
長浜を訪れる人が固定化し、伸びない時代が、ほどなく来るとの民間のデータリサーチが、このほど発表された。長浜にやって来る人は、旧長浜市街の、ごく僅かのスポット(点)に限定され、マンネリ化し、西浅井から旧近江町に及ぶ長浜市全体としては発展しないというものである。
私は、情報をくまなく調べた。JR長浜駅界隈のスポットは賑わいを見せるが、広域合併によって成立した長浜市全体は、データ路サーチの指摘があった。
確かにそうかも知れない。
小谷城跡、観音の里、賤ヶ岳、余呉湖、竹生島クルーズ。さっと数えただけでも有名なスポットが続く。これ以外にも季節に応じて素晴らしいスポット満載の湖北地域。
「行って帰る」というスタンスなら、全国何処にでもある。いくつかのスポットを繋ぎ合わせて一つの主張が出来るという味わいを、これからの人たちは求めている。
そうか。歴史財産には行って帰る中で、史料館入館料を支払ったり、付属設備への利用料を支払ったりするが、行って帰るだけの単発スポットになっている気がする。旧の長浜市内、つまりJR長浜駅界隈では、いくつものスポットを連ねて楽しむことができる。しかし、それ以外の広域・長浜市内では目的地への単発行き帰りに終始する。昼食は予め家から持参するか、途中のコンビニで仕入れれば事足りる。旧長浜市内のように、いくつかのスポットを繋ぎ合わせるのも、せいぜい二箇所から三箇所止まりだ。午後に別のところへ行くとか、休憩に北近江リゾートをいれるとかである。そんなケースなら、あえて長浜でなくても全国の何処にでもある。
私の名前は、久保遙。大学四年生。生粋の長浜育ちの人間である。高校時代の同級生の友達は、松木眸と宮本彩香である。
将来の長浜がピンチだ!
その厳しい状況を打開し、長浜に新しい発展を創りあげる。
それが、ドラゴン事業所の主張である。
私たち三人は、この趣旨にはまった。めっちゃ、賛同して、大学を卒業後、ドラゴン事務所で働きたいと思ってきた。誰が何と言おうと!
*
「大学四年間もあと十一ヶ月で終わりね。みんな就活で内定したのに、私たち同級生の三人だけはまだだね」
「気にしなくて良いのよ。来年からドラゴン事業所に就職するから」
「彩香はそう言うけれど、私は親にずっと反対されているの。でも、説き伏せている」
眸は、そう言って、黒いショートカットの上に手をかざした。
「恥ずかしいのね?」
「彩香。ズバリよ。反対される理由は、得体の知れないドラゴン事業所の存在。名前は有限会社・濱梅製菓だけれども」
「そう。あのドラゴンの存在が理解されていないみたい。でも、私にはすごく魅力があるわ」
彩香は、前向きである。
眸によれば、眸が、両親に来年四月からドラゴン事業所に就職すると言ったら、「お前、バカか?」と父に言われたそうだ。母が「この子の好きなように任せたら」と強く言ってくれることで、その場が静まるのが常だと語る。
「確かに家では中日新聞を購読している。たしかにドラゴンだ。でも、それとこれとは訳が違う」
眸の父の口癖である。
私の名前は久保遙。長浜市立の小学校、中学校、そして長浜市内にある県立高校を卒業した後、彦根にある経済学部の大学に通っている。最初、遙が言ったように、皆、就活で内定したのに、私たち三人の同級生は、まだだ。
でも、ドラゴン事務所の入社試験を受ける。