プロローグ
こんな場合、お初様ならどうするだろう?
私は迷った時いつも最初にこのことを考える。
お初様は戦国時代を彩った浅井三姉妹の二女。
姉は天下人 豊臣秀吉の側室となり、世継ぎの秀頼の母となった茶々。
妹は二代将軍 徳川秀忠に嫁ぎ、三代将軍 家光や後水尾天皇の后 和子の母となったお江。
歴史の表舞台でスポットライトを浴びた2人に比べたら、同じ姉妹でもお初様の影は薄い。
どこまでいっても茶々の妹、お江の姉というあつかいである。
実は私も三姉妹の真ん中、お初様と同じ姉と妹に挟まれた二女なのだ。
姉は美人で真面目でしっかり者だが、ちょっと世間知らず。
妹は可愛いく社交的で要領がいいが、勝気。
真ん中は美人でもなく可愛くもなく、姉から押さえつけられ、妹から突きあげられて我慢強いのだけが取り柄。
二女はまさに中間管理職のような存在、世間が思い描く三姉妹のイメージはだいたいこんなもんだろう。
そして私たちはまさに、このイメージどおりの姉妹なのだ。
それだけでなく姉は全国ピアノコンクールで何度も入賞しているし、妹は地元で有名なソフトボールの選手だった。
だからいつも私の立場は姉の妹さん、妹のお姉さんだったし私も何の疑いもなく長年その立場を受けいれてきたが、お初様を知ってから私の考えは変わった。
茶々やお江に比べると地味かもしれないが、あの時代に一番自分らしく生きた女性。
茶々の妹でもなく、お江の姉でもないお初様はお初様自身なのだ。
それから私は姉の妹をやめ、妹の姉もやめて私自身として精一杯生きてきた。
これは、そんな私とお初様の30年の物語です。