鯖そうめんと告白
長浜城歴史博物館を出ると、ちょうど4時。
「せったくだから、長浜名物を食べようか?」
「はい!」
「じゃ、『翼果楼』で鯖そうめんを食べよう。
人気のあるお店だから混んでるかもしれないけど、大丈夫?」
「大丈夫です。 鯖とそうめんの組み合わせなんですね。楽しみです」
智さんと話しながら歩いていると、鯖そうめんと書かれた黒い大きな暖簾が掛かっている日本家屋の店が見えてきた。
「あのお店ですね?」
「そうそう! やっぱり並んでるね」
お店の前には行列が出来ていたけど、1時間も待てば入れそう。
「話していればあっという間ですよ」
「じゃ、歴史の勉強をしようか?」
「また、勉強!!」
笑いながらため息をつくと、智さんはすぐに問題を出してきた。
その間、みっちゃんは智さんの肩の上でぐっすりと眠っている。
智さんの問題はみっちゃんと、豊臣秀吉の事がほとんどだった。
このままずっと智さんの側にいたら、私、戦国時代の専門家になれるかも。
智さんは真剣に話している、時々肩が触れて、私はドキッとするけど智さんは全く気にしていないみたい。
智さんは私の事をどう思っているのかな、聞いてみたいけど勇気が出ない。
みっちゃんも一緒だからデ-トっていう訳でもないし、でも、好きでもない人にここまで親切にしてくれるのかな。
智さんの気持ちがわからなくて、少し切ない。
「真由美ちゃん、どうしたの?」
智さんに言われて、はっとして智さんの顔を見た。
しまった、智さんが一生懸命説明してくれていたのによそ事を考えてた。
「すみません、何でもありません」
慌てて謝り、智さんの話に耳を傾ける。
半時間が過ぎた時、智さんの名前が呼ばれ店内に通された。
この店は築150年の呉服問屋を改装したのだと智さんが教えてくれた。
店内はにはたくさんの骨董品があって、歴史を感じる事が出来る。
鯖そうめんがくるまで、智さんが鯖そうめんについてうんちくを語っているので、ますます食べたくなってきた。
お腹がぐうっと鳴ったタイミングで鯖そうめんが運ばれてきた。
智さんにお腹の音が聞かれなったか心配だったけど、何も言われなかったから大丈夫なはず。
くるっと綺麗にまとめられたそうめんの上に、焼き鯖が乗っている。
驚いたのはそうめんにはおつゆがついていない事。
それでも、焼き鯖の煮汁がそうめんにしみ込んでいるからとても美味しいのだ。
焼き鯖もそうめんも、家で食べるものとは全く違う。
「のっぺいうどんに鯖そうめん、長浜名物は最高ですね!」
「だよね。 真由美ちゃんと一緒に食べれて良かった」
「私もです」
言ってから、もしかして智さんは社交辞令を言ったのかもしれないのに、喜びすぎちゃったかなと恥ずかしくなっちゃった。
智さんが私の顔を見つめている。 どうしたのだろう、もしかして、私、口紅が取れてる?
智さんは何か言いたそうな顔をしているのに、なかなか話さない。
何を言いたいのかな、さっき智さんが一生懸命問題を出してくれていたのに上の空だったから怒っているとか?
そんな事を考えていると、智さんが恥ずかしそうに口を開いた。
「真由美ちゃん、俺と付き合ってくれませんか?」
まさか告白されるとは思わなくて、すぐには智さんの言葉が理解できない。
「驚かせてごめん、返事はいつもでいいから」
智さんが困った顔をしている。
「違います、嬉しくて」
自分の声が震えているのがわかる。
「ありがとう。 普通の恋人のように二人っきりでデ-トって訳にはいかないけど、これからよろしくね」
智さんが嬉しそうな顔をしているのを見て、智さんと付き合えるのだと実感してきた。
「私もみっちゃん好きだから、三人でデ-トで全然大丈夫です」
私と智さんはみっちゃんのおかげで知り合えたんだから、みっちゃんがいない方が変な感じがする。
「今は光成が寝てて良かったよ、さすがに告白を聞かれたら恥ずかしい」
智さんの照れた表情が可愛くて、このまま時間が止まればいいなと思っている時に、みっちゃんが目を開いた。
「長野殿、佐野殿、おめでとうでござる」
「ええっ、みっちゃん起きてたの?」
「起きようと思った時に長野殿が告白をしていたので寝たふりをしてたのでござるよ。 わしは気が利くでござる」
「光成」
智さんがため息をついている。
「わしは二人が付き合ってくれて嬉しいでござるよ。 ただ、佐野殿、長野殿と付き合うという事は、これからも佐野殿は悪霊との戦いに巻き込まれる事になるが大丈夫でござるか?」
そっか、悪霊を成仏させる事は智さんとみっちゃんの使命なわけで、私も巻き込まれちゃうのね。
「大丈夫よ、だって、悪霊は智さんとみっちゃんが成仏させてくれるんでしょ?」
「もちろん、俺と光成で成仏させるから安心して」
智さんがはっきりと言ってくれたので、心配はしない事にしよう。
「佐野殿のちょっとおバカなところが気になるでござるが、優しいから良しとするでござる」
「みっちゃんたら、おバカは余計よ」
私が言うと、智さんもみっちゃんも笑っている。
きっとこれからもいろいろな事があると思うけど、智さんとみっちゃんがついていてくれたら私は大丈夫。