説教
「だから注意してって言ったやろ! 人一倍気の散りやすい性格なんやさかい」
「すみませんでした!」
チカは直角に腰を折り、玄野へと頭を下げている。
トラックには崩れた仏壇がすでに積み込まれている。
「謝るのは、むこうさんにやろ!」
「申し訳ありませんでした!」
と膝より深く頭を落とす。
「いや、もうええですさかいに」
と絢子の父母が玄野をなだめようとする。
「あとですっかり綺麗になりますんやろ?」
絢子の祖母が声をかける。着物姿が上品な老婦人だ。
「お性根抜きはすませてるんやから、今まで以上に綺麗にしてくれはるんやったら問題ありませんさかい」
玄野は頭を下げ、
「はい。傷んだトコの木部修理はもちろんタダでさせて頂きます!」
祖母は首を振り、
「職人さんの手間を安しよなんて思てませんさかい」
と頭を下げているチカの手に触れ、
「お嬢さん。信用していまさかい、しっかりお仕事しやってな? 主人の七回忌までにお願いね」
「は、はい!」
とチカは声を張る。
玄野のトラックにエンジンがかかっている。絢子はトラックに乗り込もうとするチカに声をかけた。
「びっくりした。意外と続いてるじゃん」
「意外にって、なに」
とチカは頬を膨らます。
「今日はヤバかったけどね」
「うん。皆さん優しくって本当泣けそう」
「泣いてないじゃん。反省してよね」
笑い合う二人。
「チカちゃん、もうそろそろ行こか」
と運転席の玄野が声をかける。
「はい、お待たせしました!」
とキビキビ応え、助手席に乗り込む。トラックが走り出すとチカは窓から頭を出し、
「ジュンちゃん、よかったらまた直しているとこ見に来てよね。待っているから!」
と手を振る。絢子も手を振り返す。
その日の晩、絢子は座敷へと呼ばれた。父母が待ちかまえており、バツ悪そうにする。
「せっかく就職したのにもったいない。半年て……広告代理店よね。厳しい仕事とは聞いているけど石の上にも三年っていうでしょ?」
母が詰問する。絢子は押し黙っている。
「お金も貯まっていないから戻って来たんやろし、どうするつもりなん?」
「……」
重い空気の中、父がおずおずと、
「なんならウチの店、手伝うか?」
「それはイヤ!」
と絢子は面を上げる。
「長浜で働きたくない」
父は心配そうに、
「せやかて……」
絢子は立ち上がって、
「近いうちに仕事は探すから、自分で。今度はやりたいことやるんやから……広告作るためにこの町出て行ったんちゃうし、口出さんといてな!」
と一気にまくしたてると、座敷を出ていった。
母がため息をつく。