まさかの真実

騒がしい声を聞きつけて、アリサの親戚や長浜の市民諸々が琵琶湖へ駆けつけてきた。多くは野次馬だ。アリサの周りには人だかりができている。そこへジョウはゆっくりと近づくと、全体に向かって話を始めた。
「よく聞け。この赤ん坊の父親は私ではなくハヤテだ」と、真実を知らされたアリサの父やマリコ、親戚は愕然とした。「見ろ。新しい生命が生まれた。アリサが苦しみ、ハヤテが守り抜いた生命だ。それなのにお前たち大人は何だ。危険だの何だのと、根拠もない嘘に乗せられて人ひとり殺すところだったんだぞ」と主にアリサの親戚を見てジョウが言うと、彼らは肩を落とした。「でもそういうあんたが嘘をついてたじゃないか!」と親戚の一人が指摘すると「話の続きを聞け!」と圧倒した。話をするジョウは、闇夜の黒さと琵琶湖の透明さを吸収し、段々と光り輝いているようだった。その近くでマリコが、ジョウを見上げて「あ、ああ。何ということ。あなたはまさか秀吉公・・・!」と手を合わせた。それを聞いて、琵琶湖全体がざわつき始めた。「そ、そんな、ジョウが?もしかして偉い人なのかとは思ってたけどまさか・・・」と、リリエも口を手で抑えて、動くことができなかった。
ジョウ、いや秀吉公はマリコの方を向いて「なんと愚かなのだ。孫の腹に向かって刃物を向けるとは。反省だけでは済まされんぞ」と言うと、マリコは目を瞑って手を合わせ、動かない。彼は続けて「長浜を思うお前の気持ちは素晴らしい。だがその前に人ひとりの生命の重さを忘れているのではないか?」と厳しい視線を送り「謝る方向が違う!」と、学校の先生のようにマリコを叱った。すると彼女は「はああ〜」と言う情けない声をあげ、アリサたちに向かって「アリサ、私はなんてことを、なんてことを!」と繰り返した。「マリばあ、もう、いいよ」とアリサは溜息をついてマリコを許すことにした。
そして秀吉公はゆっくりとアリサの父に近づき、「その穢れた手を出せ」と言って腕を掴んだ。その時アリサが「腕を切るの?!や、やめてください!」と秀吉公に乞うと、彼はアリサが抱いていた赤ん坊を彼女の父親に抱かせた。そして「どうだ。お前はその生命が誕生することに反対だったのだろう?そして逆上し、何の関係もない人間を殺そうとしたのだ。その手で抱く孫はどうだ?いかに汚れているか分かるだろう。もうこれ以上赤ん坊を汚してはいかん。牢屋の中で後悔するといい!」と睨みつけ、今度は赤ん坊を取り上げた。するとアリサの父親は涙をこぼしながら崩れ落ち、「こんな、こんなつもりじゃなかったんだ。アリサは一人娘だ。幸せに大人なっていくのを見守るのが、母さんとの約束だったんだ。それなのに私は・・・」と泣き伏せる父親に、アリサは言葉をかけられなかった。
そして、秀吉公は赤ん坊を抱いたまま「みなの者、よく聞け。お前たちが見ている私の姿を信じるか信じないかは任せるが、この赤ん坊は確かな存在だ。たとえハヤテが歴史人だとしてもな」と言い放った。「えっ?ハヤテくんが歴史人て、どういうこと・・・?」と、リリエは彼が言っていることの意味を理解できなかった。周りもざわざわしている。秀吉公は続けて「ハヤテはアリサの祖父が蘇らせた歴史人だ。つまり、この赤ん坊は現代人とのハーフという訳だ。結局、お前たちが恐れていた存在に違いない。しかしこの無垢な姿を見ても尚、邪険にするつもりか?この赤ん坊が、この地を荒らすとでもいうのか?」と市民全体に呼びかけると、急に琵琶湖が輝き出した。「そうだ。この湖は昔からこの街を見守ってきた。美しいだろう。この赤ん坊はハーフとあってか不思議な力を持っているな。どうやらお前たちの返事を琵琶湖に表現させたらしい。きっとこの街を明るく照らす存在となるだろう」そう言って笑顔を見せると、秀吉公はアリサとハヤテの元に近づいて赤ん坊を返した。そして「アリサ、お前に感謝するぞ。いろいろと楽しかった。まだまだ現代の若者についていきたいところだが、私はそろそろ戻らねばならぬようだ。力を使い過ぎたからな」とアリサを真っ直ぐに見つめた。「ジョウが秀吉公だったなんて・・・まだ早いよ、早いです。行かないでください」とアリサが涙ぐむと「敬語なんて使うなよ。よく頑張ったな。ハヤテと一緒に、その子を大切に育てるんだ」と、今度はジョウに戻ってアリサの頭をクシャッと撫でた。そしてハヤテとも握手を交わすと、今度はリリエの方を向いて近づいてきた。そしてジョウの口調で「おまえがどんな存在かは分かってるんだ、自分で不思議だと思うことはないか?」と聞かれると、リリエは「変わり者だってよく言われるけど」と答えた。「そうじゃないさ。赤ん坊が産まれた瞬間、何かを感じた筈だ」と言われ、確かに胸が熱くなったことを思い出した。その表情を見てジョウは「帰りにちゃんとあの駅員に礼を言うんだな。どうせ返すんだろ?そのマフラー。ポケットのペンダントも見せてやるといい」とリリエにアドバイスした。なぜペンダントのことを知っているの、あのおじさんに見せるってどういうことかと、またジョウを質問責めにしたいところだったが、ジョウは「じゃあな。またここへいつでも来いよ。俺も好きなんだ、あの真っ黒いパンとか肉まんとか」そう言うと、リリエの前からスッと消えていった。「ありがとう」とリリエは静かに呟き、大事に持っていた皿を強く握りしめた。

羽矢 りりい
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羽矢 りりい

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