清々しい病院で
今日の琵琶湖は、眩しい秋の太陽を美しく反射させている。昨晩起こった一連の事件はなかったかのように、地元民と市民とで賑やかだ。
結局リリエはハヤテとともに、アリサと赤ん坊の近くにいることにし、病院で一晩過ごした。
「ありがとうリリエ。あなたの力がなかったら、私たちこの子を守れなかったわ」とアリサがリリエに感謝すると、「ううん、結局何もできなかったよ。お皿だって危ない目に遭ったし」とリリエは俯いた。するとハヤテが「そんなことないよ!俺はリリエちゃんに呼ばれて、この子をマリコばあさんから守れたんだ」とニッコリ笑って言った。「え?私が呼んだってどういうこと?」とリリエが顔を上げると、アリサが「気づいてないのね。あなたが持ってるそのペンダント、私のおじいちゃんが作ったものよ。小さい頃に見て綺麗だったのを覚えてるから、真似して作ってみたの。店にも似てるものがあったでしょ?」と説明した。「えっ?アリサのおじいちゃんが?」と驚いてアリサの顔を見ると、ハヤテが「もう分かったかな?」とリリエが閃くのを待っている。だがリリエはポカンとして「へえーさすがアリサのおじいちゃん!すごく綺麗だもん、お母さんが買っちゃうのも分かるな」と言うと、二人はズッこけた。「まあ、ちゃんと帰りに駅で挨拶してくのよ」とアリサに促され、「分かってる!ジョウにも言われたもん。おじさん勇敢な人だし、お皿を守ってくれたからお礼言わないと。ちゃんとマフラーは返すよ」と言うと、二人は顔を見て見合わせて、まあいいか、という顔をした。
「それにしても、やっぱりジョウが相手だなんて嘘、最初からつく必要はなかったんじゃない?」と、まだ嘘の理由を聞いていないリリエはアリサに尋ねた。彼女は「それはね、マリばあがジョウのことを歴史人だって気付かなかったからなの。ジョウはいつも私の家にいたのに姿を消すこともできたし、歴史人だってことを隠すこともできた。それはあんな偉い人だったからいろんな力が使えたのよ。だけどハヤテは歴史人だって気づかれちゃうわ。今までハヤテとマリばあは、実は会ったことがないの。私が家を出ちゃえばそれまでだけど、マリばあのことだから追ってきそうなきがしてね」と理由を説明しながら、悲しそうな表情になった。リリエはハッと気づき、「ごめんねアリサ。お父さんやマリコさんのこと辛いのに」と彼女に謝った。「ううん、いいのよ、私たちあんなに危ない目に遭ったんだもの!でも、でもね。本当は優しい。そして私と血の繋がっている人たちであって、この子とも繋がってるの。だからちゃんと面会に行くわ。出てくるまでこの子を立派に育ててずっと待ってる!」とアリサは抱えている赤ん坊を見つめて明るく言った。「そうだね。私、なぜかこの子と他人の気がしないの。またみんなに会いにくるよ!真っ黒いパンやお菓子も食べたいし」とリリエはニッコリ笑って「二人とも子育て頑張ってね!そういえば名前は決まったの?」と二人に聞いた。するとアリサは「ジョウよ!男の子で良かった」と、嬉しそうに赤ん坊を見つめた。