星斗をつかむ4
夏の盛りが過ぎるころ、気砲の威力を強化することと、弾を一〇発まで連射することには成功した。羆は冬に冬眠するため、秋の盛りには勝負をかけねばならない。一方で、夜遅くまで、望遠鏡の鏡づくりにも知恵を絞っているらしい。朝に作業場へ行くと、目の下に隈を作りながら作業を始めることもしばしばだった。
八月になって、試射をすることになった。姉川の河川敷に何枚もの杉板をもって距離を変えて打つ。二人の弟子と、私が同行した。二刻(一時間)ほどで、距離や弾の大きさなどを試し、結果、持矢倉(射程距離)も五町(九〇メートル)と上々だった。
「三〇〇年も昔、この少し上流で姉川を挟んで浅井長政公と信長公が向かい合った。この時、すでに鉄砲は兵器として使用されている」
「そうだな。国友村の文書にも、長政公に献上したと伝えられている」
「その頃の鉄砲は、まだこの国に渡って来たばかりで命中精度も低く、弓のように連ねて射ることもできないため、武具としては補助的なものだった。今、我々が作っているものは、異国(とつくに)のものを参考に、作り方をひねり出したものだが、それで前回のような過ちは起きないだろうか」
「どういうことだ」
「つまり、この気砲は鉄砲で培った技術をもとに作ってはいるが、姉川の合戦で使われた時の鉄砲のように、まだ未完成のものなのじゃないかと思うのだ」
山の端に落ちようとする太陽が、川面を赤く染め始めていた。藤兵衛は、鉢巻とたすきを取り、防御用に身に着けていた前掛けも外した。試射は終わりということなのだろう。そして再び口を開いた。
「空気銃は最初、医師の山田大円先生に異国のものの修理を依頼されたのが発端だった。分解して構造を見た時は、世界は広い、このようなものを考える人がいるのだと驚かされた。見たことはないが、異国での鉄砲はさらなる発展を遂げていると思う」
ここまで話して、弟子に撤収の準備を指示した。そして、「一つ、いいことを思いついた。時間がないからうまくいくかどうかは分からないが」といって、一〇日後に改良を施した気砲を持ってニレのところに行くことを決めた。