「閻魔様の吐いた嘘・(其の壱・道標)」

 ある日、閻魔様の前に与平じいさんがやって来た。
 閻魔様は、天国行か地獄へ落とすかを決める裁判官で有る。
 閻魔の鏡に映り出された、与平じいさんの一生を見て、優しい顔の閻魔様は。
「与平、お前は働き者で有った。天国へ送ってやろう」
 そう言われた与平じいさんは。
「ワシは、女房一人幸せに出来なかった、地獄へ行くのが当然の事で地獄へ落として欲しい」と頼んだ。
 与平じいさんは閻魔様の言う事をどうしても聞けないと言い出した。
 困り果てた閻魔様。暫く思案していたが。
「では・・この道を行くと分かれ道が有る天国に昇る道と、地獄に落ちる道、其処には
「みちしるべ」が立って居る。与平お前の行きたい道へ行くが良い。」
 与平じいさんの後姿を優しい顔で見送った。
 与平じいさんは、分かれ道に来ると。
「 右・地獄へ」
「 左・天国へ」
「みちしるべ」が立っていた。与平じいさんは迷わず右の道を行ってしまった。

その三年後、お豊ばあさんが閻魔様の前にやって来た。
 閻魔の鏡に映し出された、お豊ばあさんの一生を見て、閻魔様の顔は険しく成って行く「お豊お前は。与平の女房だな」
「・・・はい・・そうですが・・・」
「お前は、地獄行だ・・・」
 そう言われた。お豊ばあさん思いも寄らぬ事と閻魔様に文句を言いだした。
「・・?・・何故わしが・・地獄へ行落ちなければ成らぬ・・・?」
「なぜ・・?・・判らぬか・・お前は、腹が痛いから医者に行く、頭が痛いから医者に診てもらうと言っては。町へ出かけ、うまいものをタラフク食べ、芝居見物をして居たでは無いか。」
「与平は。病弱なお前に体に良い物一つ食べさしてやれなかった。女房一人幸せにしてやれなかったと、自分を責めて、望んで地獄に落ちたのだぞ、それをどう思うのか・・・?」と尋ねた 。「じいさん本人が言うのだから間違いない、わしは不幸だった。地獄に落ちる筈はない。」 閻魔様の眉毛は逆立ち、身毛もよだつ恐ろしい顔に変わって行った。
 流石のお豊ばあさんも、これ以上閻魔様を怒らせば地獄に落ちるより、もっと酷い目に合うかも知れないと思った。
「ではこうしよう。この道を真っすぐに行くと天国に昇る道と地獄に落ちる道への分れ道が有る「みちしるべ」の示す道を行け。地獄に行って与平を探せ、与平事だ、お前を天国に昇らせて欲しいと地蔵菩薩に頼むであろう、地蔵菩薩慈悲によって、お前は天国に昇る事が出来よう。それしかお前の天国に昇る方法は無い・・・」
 仕方なく、お豊ばあさんは。分れ道を目指して歩きだした。
 分かれ道迄来ると、閻魔様の言う通り、「右」地獄への道・「左」天国への道と書いて有った。
「自ら地獄を選ぶ馬鹿者が居るか・・・」
「一歩でも足を踏み入れたら、閻魔の神通力をもってしても引き戻す事は出来ぬ」と閻魔様が念を押す様に言っていた事を思いだし、ヒョイと左の道に飛びこんだ。
 大笑いしながらその道を進んで行った。

 其処へ閻魔様に呼ばれていた、赤鬼と青鬼が帰って来た、この赤鬼と青鬼は、この分かれ道の番人で・・いや・・番鬼で、閻魔帳の通り、此処で地獄に落ちる者と天国に昇る者に振り分ける役人・・いや・役鬼だった。
三年前にも同じ事が有った。大した用事でも無いのに閻魔大王に呼ばれて帰って見ると「みちしるべ」が立っていた。
「・・おい赤鬼よ・・右に行けば天国だな」
「そうだ・・左に行くと地獄に落ちる」 
 「みちしるべ」は「右・地獄へ」「左・天国へ」とまるで反対の道を差して居た。
青鬼と赤鬼は顔を見合わせて、首を傾げた。

 「閻魔様の吐いた嘘・(其の壱・道標)」
終わり

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