意地の火曜日
翌日私はあることに気づいた。
「昼に出ればいいじゃない」
そう、幽霊は夜に出るというのはただ最初の光が見えやすいからだけのこと、いつ出ても気づかれさえすればいい。
「よーし、怖がらす!」
誰にも聞こえないので大声を出して決意を固める、ここまで来たら意地でも驚かしてやる。
流石に大勢の中出るのは気が引けるので男性をつけてみる事にした。
「ありがとうございましたー」
男性は大学に通っているようだった、今日はコンビニでバイトらしい。
その後も男性の後について買い物、そしてようやく男性は家に帰った、いよいよだ。
私は不可視の状態でテレビを見ている男性の目の前に立った、大きく息を吸い込み可視状態にすると共に大声をだした。
「わー!!」
間違えた! これじゃあ{怖がらす}じゃなくて{驚かす}だ、完全なるミス!!
今までのように少しは固まるかと思っていた男性は目を輝かせて……
「ひっ」
また大声を出されるかと思って私は咄嗟に身構えた
しかし男性は大声を出さず落ち着いた声でこう言った。
「こんにちは、羽馴さん」
大声で元気な男性しか見たことなかった私はその落ち着いた優しい声に少しドキっとしてしまった。
心の中で一瞬現れたその感情を私は一瞬で消した。
「えっと……こんにちは」
とりあえず返事をする、男性はテレビを消した。
「あの、どうぞ」
そう言って男性が差し出した椅子に座る。
「えっと、幽霊……ですよね」
男性はその落ち着いた声のまま私に話しかけてきた。
「その通り、私は幽霊です」
「その……質問していいですか?」
「……」
私は口を閉じた、人から珍しい好奇心の目で見られるのはあまり心地の良い事では無い。
少し黙っていた私の気持ちに気づいたのか男性が口を開いた。
「あっ違うから、好奇心とかじゃなくて……いや好奇心だけどまた違うっていうか……」
「ふふ」
慌てて混乱している男性が面白くて私は笑ってしまった、すると男性は動きを止めて私の方向を見た。
「えと……何かいるんですか?」
私はそう言って後ろを振り向くがなにもなかった、私は話を変えようと話題を変えた。
「あの、質問ってなんでしょうか」
男性は我に返ったように頭を振ってこう言った。
「羽馴さんはなんでここ……えーと、地上にいるんですか?」
「えーと、それは……」
「何か、未練があるんですか?」
「…………」
図星だった、これ以上話せない、これ以上話してしまうと人に甘えてしまう、他人を求めてしまう、そう感じた私は部屋から消えようと席を立った。
「それじゃあ」
そう言って部屋を出ようとして男性に背を向ける、あっけにとられていた男性が口を開いた。
「あの、最後にもうひとつ!」
「なんでしょうか」
男性の方は振り向かず極力冷たい声でそう答えた。
「あの、未練が無くなったら自動的に……本人の意思と関係なく天国に行くのでしょうか」
「……いえ、一回この世界に霊体が馴染んでいるのでここにとどまることはできます、では」
不可視になって部屋から出る直前、男性の声を背に受けた。
「あなたの未練!! 俺が晴らしてみせます!」
私は部屋を出た、男性の声は扉に阻まれてもう聞こえなくなっていた。