三・最愛の君たちへ。
実際、二十歳どころか十八の時、椿や勝が高校を卒業するタイミングで一遍勝負して僕は負けている訳だ。大関の息子との腕相撲。勿論素面のガチンコで、だ。
二十歳前のガキには負けんぞ、と気合い入れて臨んだってのに右も左も関係なしに完敗させられ僕は凹み、勇邁は驚いていた。
「ぜってー親父泣かす!」
と泣き叫んでばかりいたガキだったのに、こんなに強くなるなんてなぁ。その光景を少しでも予想できたかい。梓。
三つ子を産んで、抱いて、笑って……それからすぐにお別れだなんて、酷すぎるよな。君は、子供達の声も聞いた事が無いし、立って歩く姿だって見た事が無い。
幸せ、だっただろうか。子供達が成人して、それでも、思い続ける。
勝は大学で心理学を専攻する事に決めた。人に優しくできるかもわからない。それでも臨床心理士を目指そうと思う、と言っていた。君に似て優しい子だから、本人がどれだけ悩んでいようと僕は悩まないさ。
椿はまた卓球選手権日本一を取った。オリンピックでも次は金を、と周囲からのプレッシャーも凄い事だろう。よく頑張っている。君に似て厳しい子だから、ちゃんと見守ってあげたい。唯一の娘だから、かな。余計にそう思う。きっと言ったら煙たがられることだろうけどな。
勇邁は見ての通り。これからも頑張り続けるさ。君に似て強い子だから、何が起こっても大丈夫。立派に綱を守り続ける。
三人とも、もう僕が必要かどうかわからない。
そっちに行きたいっていう訳じゃないんだ。
花びらが舞う。いつだって僕はこの花びらを掴むのが下手で、それでいつも力任せに腕をぶんぶん振り回しては君が呆れるのを待っていた。君が何か喋ってくれるのを待っていた。君の声が聞きたかった。
「お前はしょうがない奴だ」
と言って笑う君に、僕は安心していた。
梓の色をした髪の毛に四季とりどりの花びらが乗っかっているのを見ていると、自分でも不思議なんだけれど、僕はいつも笑ってしまっていた。