三・オタクか! 悠
「――オタクの何が悪いッ!」
この言葉が今日一日で俺が聞いた一番の大声だった。俺も真彦も面食らうしかない。
その後のことはもう細かく言い表すのも正直苦痛だ。列挙していくと、
何故か正座させられる俺と真彦
こんこんと説教される
熱の入るオタク講座
特撮アニメの何たるか
ガーゴンはかわいい
かわいいは正義
故にガーゴンは正義
悪役でも正義
そもそも悪役は悪人(悪獣?)じゃない
見てよこのとぼけた顔! どこからどう見ても悪い子じゃないでしょ
熱弁を振るうのは結構だがお前はその顔を見たことがない。
正座を解いたり欠伸したりすると――音はたっていないはずだった――剣道で鍛えられためちゃくそ早ぇ手刀が飛んでくる
何でわかんだよ?
とにかく打たれまくる俺と真彦
イラッとくる
真剣白刃取りしてみる
今度は蹴られる
蹴り返してみる
ガーゴン(ぬいぐるみ)に噛まれる
えー。と固まる俺と真彦
説教続行
今日放送予定だった話の気合いの入った解説
自分がそれをどれだけ楽しみにしていたか
そして『行くな! ガーゴン』が潰れたことの無念さの激しい解説
それはまさしく他の手を振り解いたりもしていないのにも関わらず菩薩から垂らされた糸が切れて落ちてしまったカンダタのような心境
世の菩薩というものはここまで悪辣な行為をかくも平然と行ってくれるというのか
以下エンドレス
結論
なんだ、ただの地獄か
いや、じゃなくて。何なんだこの地獄は! 意味がわからない!
硬直した頭で思い出すのは高校での悠の友人関係。そういえば訳の分からん連中と悠は最近仲良くしている。何か同好会か何か組んだんだとか言ってなかったか? そもそも剣道部に所属しておきながら同時に他の部活なり同好会に所属することは校則違反だろうがよ。あいつらはそれを知ってながら会員の人数を三人にするために強引に悠を名目上の面子に入れているのだ。そうじゃないとまず同好会すらも認められないからな。
悠も悠だ。あいつらの所為でそうなったのか、とか問われると全くもって違う――からこそ誘われちまった訳なんだが――が、一番大事なのは剣だろうが。オタクっぷりに拍車かかっちまってる。
「ちょっと! 聞いてる? 剱人!」
うるせぇな聞く必要もねぇ話だろうがよ! そもそも師匠の前ではそのオタクっぷり微塵も出さずに隠してる癖によ!
口に出して言ったら羽交い締めにされチョークスリーパー、ヘッドロック等々やられかねないから黙っておく。この間のは効いた。俺が余りにも冷静じゃなかった、というのもあるが、そもそもケンカで関節技を平気で持ち出すこいつの情け容赦のなさには呆れるものがある。
そう思っていた時に、救いの神の声がかかる。
「ただいま帰りましたー」