四・お前もか! 嶌
「ただいま帰りましたー」
嶌の声だ。良かった。これでようやく解放される!
その小柄な体つきと同じで、ちょこちょこと歩いてくる嶌の手にはDVDらしきディスク。
「あ、借りてきてくれた?」
悠はいきなり機嫌の良さそうな声で嶌に尋ねる。嶌はそれにはい〜。と即答する。さっきまでの不機嫌さ加減はどこいったよ。
「はい〜。ところで、どうして真彦さんと剱人さんは正座されてるんですか?」
よしよしよくぞそこを訊いてくれた。流石気の効く奴だ。
かくかくしかじか。説明する。
「それは少し反省が必要ですね! もう少し正座してるのが良いと思います!」
なんでやねん!
あぁ。忘れていた。こいつも『行くな! ガーゴン』になるとこうなるんだよ。あぁ。すっかり忘れていたさ俺のバカたれ。
「俺、もう足が痺れてるぜ……」
右手の親指を立てて誇らしげに真彦が白旗宣言。
「修行が足りません!」
「マジかよ! 嶌にそれ言われるのかよ……。そこは許せよ……。お前らとはウエイトが違うんだよ……」
「ガーゴンに謝りなさい!」
「えー」
「えー。じゃありません! 謝るのです!」
「謝るのです」
悠まで調子を合わせて謝罪を迫る。すげぇなオタク。
一先ず頭下げれば正座と下らない説教から解放されるのだ。それだけ、それだけを目的に俺ら二人はあっさりと頭を下げた。ガーゴンさんマジさーせんした。ウイッス。
「つかさー。ガーゴンはかわいくはねーだろ?」
真彦のバカが口を開く。これぜってースイッチだろ? 学習しねえ奴だなぁ。ほら。悠と嶌が顔を見合わせて頷き合ってるぜ、真彦。とりあえずガーゴンが飛んでくるんじゃね。
「ガブ。がおー!」
ほら。嶌の音声付きで。怖くもなけりゃ痛くもねえけど、ガキかって。
「いやいや、どんだけ見たって。ほら、かわいくない」
「がおー!」
「謝れ! ガーゴンに謝れ!」
ほらまた訳分からんことに……。
「ガーゴン実物は体長数百メートルに体重十万トンだぜ? ぜってーかわいくねー!」
真彦までそういう話題について行きだしたしね! 何だこいつら!
「ガーゴンはかわいい!」
「かわいいは正義です!」
「ガーゴンはかわいいから正義!」
「ぜってーかわいくねーから悪だろ?」
「この憎めない顔!」
「その顔をお前は見たことねーだろが」
「見なくてもかわいいはわかるんです!」
「意味わかんねえよ」
「このフォルムがかわいい」
「いやフォルムて」
「こう、こうして、丸みがあって。うん。かわいい!」
「いやだからそれはぬいぐるみだからであってだな……」
テレビのある和室で繰り広げられるオタクによる怪獣アニメ談義。めでてぇこった。埒あかねぇよこのバカどもが!
「俺はもう良い。とりあえず稽古行かねえとな!」
その言葉を捨て台詞にして部屋を後にしようとした。その瞬間に聞こえたのは、
「あーーーーーーー!」
という嶌の悲鳴。何事かと皆で嶌とその手にあるディスクを見る。
「これ、……DVDじゃないです。よね……」
紙袋の中のディスクをちらりと見て確認してみると、それには確かにブルーレイの標章が描かれていた。
「あー。違うな」
俺なら間違わないだろうが、機械音痴、というかあまり詳しくない嶌なら間違えそうだ。というか、ちょっと前に間違えてた。だから今回は気づくのが早かった訳だ。
……ま、おせーけどな。
「見られ、ない?」
嶌の疑問系の言葉。いやそりゃそうだろうよ。
「…………」
「…………」
分かりやすい二人の沈黙と項垂れ。落ち込み様が半端ないが、まぁこれから稽古だ。頑張ってもらわないとそれは困る。
「んじゃ、行くか。真彦。悠は頼むわ」
「おう。行くか」
真彦に引き摺られ、悠も道場へと向かう。