五・八つ当たりか! 悠
「あー…………」
呟きと共にガーゴンの様な半開きの口。その口から魂が抜けて行っているのが、別にスピリチュアルだとかそういうのを信じているでもなく持っている訳でもない俺にも見えるようだった。これはあの時の借りを返す絶好の機会だな、と俺は打算的に思っていた。
そしてそれは思いっきり間違いだった。あいつこういう時むしろすげぇ気合い入るのな。八つ当たりだろうけど、打ち込みの気合いただもんじゃねぇ。数割増だった。八つ当たりだろうけど。まぁ幼児向けアニメ見られなかったことに対する八つ当たりだろうけど!
ガーゴンそんな好きか! もうガーゴンと結婚してしまえ! そんな幼稚な文句も口をついてしまいそうになるのをぐっと堪えて――流石にガラじゃないだろ?――、じっくりと向き合った。決して負けっぱなしだった訳じゃない。数的には、五分、だったろ。この前みたいなことにはならない。それに、やっぱり気合いはあっても十二分なメンタルでない悠だ。崩れはある。むしろ、十分でない悠に対して五分を越せない自らの鍛錬不足を責めるべきか。
竹刀を握っている間はともかく、そうでない時の悠の落ち込みようは確かに大きかった。師匠も当然気づくが、その原因を詳らかに語る訳にはいかない。師匠はオタクを理解しない。できない。ガーゴンかわいい! 力説すれば鉄拳が飛びあのぬいぐるみは速攻で燃やされる。だから悠のガーゴングッズ――そう。あのぬいぐるみ以外にも大量にあるのだ! これだからオタクは……――は嶌の部屋に全てある。孫娘の趣味、ということにしておけば、
「……孫の教育、というものにはあまり口出しはできぬ、よな……」
ということにしておけるのだ。よもやあの殆どが内弟子の悠のものです、なんて分かる訳がない――そう。嶌は悠に影響されてガーゴンにのめり込んだクチだ――。このアイディアは悠の祖母やその兄貴にあたる爺さんが幼い日の悠に教え込んだものなのだが、完璧すぎる。それを約十年徹底して守りきっている悠には正直驚きを禁じ得ない部分もある。そして俺らもよく話してないよなぁ。……何かおごってもらうくらいはしてもらっても良いよな。そんな気がしてきた。急に。