平和的解決
カストゥール王国は北にニヴァシュ山、南に通称『最果ての森』と呼ばれる森を持つ騎士国家だった。騎士であり王でもあるモルド・カストゥスは頂きに『エーテル』を戴いた王冠を被り玉座に深く座していた。巨大な城は齢数百年に渡り、その威厳な様相をまるでモルド王の着こむ甲冑のように構えていた。
「ルキウス! ルキウスは居らんのか!」
モルド王の叫び声が玉座の間から響いてくる。カツカツカツと金属的な足音を鳴らしながら、金髪の青年が玉座の間へとやって来た。甲冑に身を包んでいるが、その肩には貴族の象徴である赤いマントが付けられている。やってきた青年は玉座の王と目を合わす事も無く玉座の前で跪いた。
「申し訳ありません父上。書斎に居りましたもので」
「遅い。貴様はいつも遅い。呼ばれた理由は分かっておるな」
「……はい」
頭を垂れるルキウスなる青年に、モルド王は怒りに満ちた瞳を向けている。
「敵将を討ち取った後、勝鬨を上げる中森へ逃げたそうだな?」
「………………」
「何故逃げる!? お前は騎士だろう! 我がカストゥスの騎士にして騎士王の息子だぞ! 何故そのような愚行を犯した!? ルキウス!!」
「……ち、父上それは……」
「パーシヴァルは父に反抗し、グリフレットは弟であるお前に剣の腕で負け、腕前だけは一番のお前は一番の臆病者! お前達は父を愚弄しているのか!? ルキウス。騎士としてお前は恥を知れ!!」
「………………」
モルド王の叱責に、王子ルキウス・カストゥスは頭を垂れ王の怒りが静まるのを静かに待つだけだった。そんな息子の様子に納得した様子は無く、モルド王はギリと奥歯を噛みそれ以上の言葉を紡ぐ事は無かった。
「……もう良い下がれルキウス。お前達三兄弟に何かを期待した私がバカだったのかもしれぬ」
「………………申し訳ございませんでした。父上」
ルキウスは王に一礼をし、玉座の間から王と一度も視線を交わす事無く出て行った。
その後ろ姿を疲れたように見送り、モルド王は深い溜息を吐く他無かった。
「ルキウス」
「……グリフレット兄さん」
茶髪に甲冑を着込んだ男性がルキウスの元へと歩いてくる。眉間に皺を寄せ、髭を生やした男性はルキウスの元へとやってくるなりその横面を引っ叩いた。
「、!」
「逃げたそうだな、ルキウス」
「………………兄さん、」
「お前に……騎士としての誇りは無いのか!? お前が将として、騎士として初めての陣。しかも見事敵将の首を討ち取った後に逃げる等お前は一体何を考えているんだ!!」
「……申し訳、ございませんでした……」
「謝って済む問題か! 私はお前に隊を預け、初めて将の座を譲ったというのになんだその体たらくは!」
「兄さん、私は……」
「言い訳等聞きたくはない!!」
また横面を強かに打たれ、地面に倒れ込むルキウス。そんなルキウスを容赦なく踏みつける。
「お前に負けた事がまず間違いなのだ……私がお前より弱い等あり得ない!」
「………………止めて下さい、兄さん」
「ルキウス。そうだルキウス。私がお前より劣っている等あっていい事ではない!!」
「止めて下さい兄さん!」
蹴りつけてくる足を掴み押し返すルキウスに、男性の体が大きく傾いだ。倒れかける男性の体を支えたのは背後からやって来てた金髪の男性だった。
「何をしているんだ。グリフレット、ルキウス」
「兄上……」
「パーシヴァル兄さん……」
眼鏡を掛けた知的な印象を受ける男性は、深い溜息を吐き弟達を見ている。
「グリフレット。王族ともあろう者がこのような場所で何をしている。ルキウスがしたことは確かに褒められた事ではない。だがグリフレット。ここでお前がそんな事をしてもお前の株が下がるだけだぞ」
「………………」
舌打ちと共に茶髪の男性が歩み去っていく。その後ろ姿を見送り、ルキウスは兄を押し返した手を見下ろした。
「……はぁ。お前は、人を殺すのがそんなに怖かったのか?」
「……はい。人を殺す感覚は、きっと一生慣れないと思います。そして、慣れたいとも思えない。パーシヴァル兄さん。私は、何か間違えているのでしょうか」
「お前のその臆病な性格は確かに少々難点だが、その感想は人としては正解なのだろう。だが、今は戦乱の世なのだ。そんな事を言っている場合ではない。騎士団の隊長になったのだろう。役目は果たしなさい」
「………………」
長兄の言葉にルキウスは肩を落とし、小さく頷くだけだった。長兄は小さく笑うとルキウスへ手を伸ばす。
「!?」
驚くルキウスを無視し、その柔らかな髪をくしゃくしゃとするように頭を撫でると手を離した。
「私はもう剣を持たない。私の自分勝手な都合でお前達に任せてばかりで済まない」
「パーシヴァル兄さん。母上の事は、」
「ルキウス。グリフレットを怒らないでやってくれ。あれは、まだ気が動転しているんだ。お前がすぐに私達を抜いていってしまったから。そうだ。まだペレアス卿と戦った傷も癒えてないんじゃないか? しっかり部屋で休むんだぞ」
長兄はそれだけ言い残すと踵を返して去っていってしまった。ルキウスは自らの両手を見下ろし、深い溜息を吐いた。
臆病な心はずっと逃げたいと叫んでいたのに。この手はあっさりと敵将の首を討ち取っていた。その事実に何かとてつもない恐怖を感じて無我夢中で逃げたのを思い出す。そして、あの森に入ったのも。
敵将ペレアス。あの男との戦いは一瞬だった。首を切り落とすのを難しいとも感じなかった。そんな自分が恐ろしく感じた。
「いっその事負傷していれば良かったんですが……残念な事に恐ろしい程無傷なのは、何故なのでしょうね」
今回の戦は負けるだろうと思われていた戦だった。敵将ペレアスは単騎で多くの同胞を葬った猛者。そんな猛者相手に初陣の将。恐らく兄としてはペレアス将軍にルキウスを殺してもらう手はずだったのだろう。ルキウスが無傷でその猛者を討ち取る事等誰も想像していなかったに違い無い。
いとも簡単に人が殺してしまえる自分に最も恐怖しているとルキウスはまだ気がついていなかった。
「貴方は、どうお考えですか」
黒い魔女が問う。
暗闇は答える術を持たず、答える気配も無い。魔女は暗闇に笑い掛け、眠るように吐息を漏らした。
「貴方の大事な国を、私は……手に掛けなければならないのです」
暗闇は答えない。魔女の視線は笑みを浮かべているも見上げた虚空から笑みが返される事は無かった。
小さく、暗闇に問い掛ける。
「お許し下さい。でもきっと大丈夫だと思うのです。それに……そろそろ、私もそちらに行きたいです……殿下」
小さく零れ落ちた言葉は暗闇に吸い込まれていった。
暗闇は暗闇しかなく。答える術も答えを持つ者も彼女の望むものも存在していない。全くの虚無である。それでも、魔女の瞳は暗闇に笑みを投げかけていた。
「ルキウス殿下」
「………………」
起床早々に部屋に訪れた顔馴染みの言葉に無言で不満そうな視線を送るルキウス。やって来たルキウスより少し年上の青年騎士はその視線に苦笑を浮かべるだけだ。ルキウスお付きの侍女もその様子に苦笑しているだけだった。
「そんな顔しないで下さいルキウス殿下。本日ですが、陛下の命によって、城から出る際は私が付き従わせて頂きます」
「要らない」
「要ります。ダメです。殿下……そんな我儘を言わないで下さい」
「そもそも、私は今日主だった仕事も無いよ。一日剣の稽古だ」
「あ、じゃぁ城から出る予定はないんですね?」
「あったら何だと言うんだい?」
少々棘のある物言いでルキウスが問えば、青年騎士は嬉しそうにうんうんと頷いている。
「いえ、今日は城下にて新しく王国騎士団に入る者達の試験がある日でしたので。殿下に出掛ける予定が無ければ自分も心置きなく試験官というものを全う出来ると思いまして」
「……王国騎士団」
青年騎士は嬉しそうに意気揚々とルキウスの部屋から出て行こうとするも、ルキウスがその肩を掴み青年騎士の歩みを妨げる。
「アグロヴァル卿」
「……ダメです殿下」
「王国騎士団の将軍は現在私です」
「グリフレット殿下に戻ったでしょうその権限は……」
「それでも私も王国騎士団に身を置いている身です」
「……はぁ。ルキウス殿下」
アグロヴァル卿と呼ばれた青年騎士は疲れた様にルキウスに目を向ける。ルキウスの目が異様に輝いているのを見て青年騎士は肩を落とした。
「陛下に叱られても自分は知りませんよ」
「大丈夫です。君が一緒と知れば父上も何も言いません。そうでしょう? アグロヴァル卿」
「……そうですが……あぁもう。その呼び方止めてくださいよ殿下ー」
情けない声を出す青年騎士。ルキウスは満足気に頷き口元を笑みの形に変えた。
「さぁ新しき仲間を見に行こうじゃないか。というわけでニーナ、行ってくるよ」
「引っ張らないで下さい殿下。馬車を用意しますから」
「いってらっしゃいませ、殿下」
青年騎士の腕を引っ張るようにして歩くルキウスに苦笑するしかない青年騎士。ニーナと呼ばれた侍女はスカートの裾を掴みゆっくりとお辞儀をしてルキウスを送り出す。
「さぁ行くぞ、アル」
「本日は、王国騎士団選定試験にお集まり頂き真に感謝致します」
試験監督であるアルの演説が闘技場に響き渡る。
王国騎士団の選定は闘技場にて行われる。今回の実施試験は純粋に強さのみを求めたものである。この試験の後に残った者達が騎士としての品位等と問う学術試験への道を開く事となる。
アルの演説が高らかに響く中、今回試験を受ける者達の視線は明らかにアルではなく背後の人間に注がれていた。カストゥール王国第三王位継承権を持つルキウス・カストゥスが控えているからであろう。ルキウス自身は自らに視線が集中していることを承知しているものの気に留めた様子も無い。
「おいあれが……」
「王国騎士団最強のルキウス殿下……」
「でも、この前の戦では逃げたって聞いたぞ?」
ざわざわと囁かれるルキウスの話題。アルが咳払い一つすればそれは簡単に拡散され空気中に散っていった。気を取り直してアルが試験の概要を説明するために書簡を取り出した。
「では、これより試験を開始する……!?」
闘技場の奥から絶叫が響いてきたのはその瞬間だった。
アルが何事かと背後を振り返れば、闘技場で飼われている牙が異常に大きくなったサーベルタイガーと呼ばれる魔物の虎が唸り声を上げながらゆっくりと闘技場に出てきた所だった。今日は剣奴との戦いも予定されてはいない。恐らく、担当者の不手際によって勝手に出てきてしまったのだろう。
「殿下! 危険ですお逃げ下さい!」
アルの怒声が飛ぶ。サーベルタイガーの目の前には遮る物はなく。一直線にルキウスの元へと駆け寄れるような場所だ。サーベルタイガーの目標がルキウスへと定められたのを見て、アルが剣を抜き演説台から飛び降りる。
「殿下!」
サーベルタイガーがルキウスへ肉薄する。ルキウスも腰に下げた剣を抜きサーベルタイガーから目を離さない。アルが駆け寄るも、ほぼ同時にサーベルタイガーも飛び出してきた。巨大な口を開け、ルキウスに襲いかかるサーベルタイガー。ルキウスもサーベルタイガーの動きに合わせ、持っていた剣を後へ『引いた』。
「――――――ッ!」
「、!」
声にならない悲鳴が響いた。それが、誰のものだったのかアルには分からない。だが、ルキウスに噛み付くという直前で動きを止めたサーベルタイガーに目を見開くしか無かった。
「……重いな」
そう呟くとルキウスはぐ、とサーベルタイガーの額を押した。サーベルタイガーの長い両牙の間にルキウスの腕が突き刺さるようにして入っていた。サーベルタイガーの口の中に入ったルキウスの腕。サーベルタイガーの口からは止めどなく血が流れていた。ずるり、という音と共にルキウスがサーベルタイガーの口の中から腕を抜いた。その手には剣が握られ、サーベルタイガーの唾液以外に変わった様子は見られない。代わりに、腕を抜かれたサーベルタイガーが呆気無く闘技場の地面に沈んでいく。
ルキウスは突っ込んでくるサーベルタイガーの口の中に躊躇うこと無く剣を深く突き刺したのだ。動揺した様子も無く、ルキウスは突撃をモロに受け止めた肩の様子を確かめている。外傷という外傷は見られない。肩口もおかしな様子は見られなかった。
「……で、殿下?」
「アルか。この可哀想な子を地面に埋めてあげてくれ。すまないな、こんな所で死なせてしまって」
躊躇いもなく命を奪っておきながら、ルキウスは本当に悲しそうな目でサーベルタイガーの頭を撫でていた。そんな様子に周囲は唖然とし沈黙が降りるもアルは我に帰りルキウスの元へと駆け寄るのだった。
「本当に心配したんですからね」
「でも無事だったんだからいいじゃないか」
馬車に揺られ、王宮への帰路へと着いたルキウスとアル。ルキウスの肩には包帯が巻かれているが、これはあくまでに『一応』という事であり、外傷も無ければルキウス自体特に異変を感じているわけではない。アルはへらへらと笑う自らの主人に溜息が出る。
馬車の中、相対するようにして座った二人は闘技場から帰ってくる途中である。乱入してきたサーベルタイガーは闘技場を運営する数人を食い殺しており、試験運営のスタッフも足りていないということで試験が中止になり呆気無く返されてしまったのだ。闘技場では今でも事後処理で大忙しの有様になっていることだろう。これからは魔物用の檻がこれまた厳重なものへ変換する為の国王への願書も出てくるはずだ。闘技場はしばらく使い物にならないだろう。
「それにしても、殿下はどうしてそこまで躊躇いも無くモノを殺せるのでしょうね……サーベルタイガーもペレアス将軍もそうですけど。表情に一切の焦りとか恐怖とかがありません。その豪胆さは称賛に値しますよ」
「……褒め言葉として受け取っておくよ」
「褒め言葉ですよ?」
キョトンとするアルに、ルキウスは返答もせず馬車の窓から外に目をやった。唐突に、馬車がその動きを止める。アルが何事かと窓から顔を出し、御者の男に声を掛ける。
「どうした?」
「いえ、正門に誰かが居るらしく……今開けて貰います」
「誰か?」
アルが小首を傾げながらその体を馬車の中に収める。程なくして正門が開き、馬車が動き出す。窓の外をぼんやりと眺めるルキウスはアルや御者の事を無視するだけだ。
ふと、ルキウスの視界に『誰か』が食い込んできた。
窓の外、正門に立つ衛兵と話をする黒髪の女性。
「……、! 馬車を止めてくれ!」
ルキウスが御者に指示を下すと、御者は驚いた様子で馬たちの歩みを止めさせた。アルも驚いたようにルキウスを見る。馬車は正門を少し通り過ぎた所で停車した。ルキウスは躊躇いも無く馬車から降りると正門へと歩いて戻っていく。
「ルキウス殿下!?」
アルも慌てて馬車から降りるとルキウスの後を追う。ルキウスの目は衛兵と話し込む女性を捉えている。ツカツカと衛兵と女性の元へと歩いて行くと、衛兵が驚いた様子でルキウスを見る。そして、話し込んでいた女性はキョトンとした様子でルキウスを見上げているだけだった。
ルキウスは恭しく頭を下げ、地に膝を着くと女性の手を取った。
「あら……貴方様は!」
「はい。お久しぶりです」
突然膝を着いたルキウスに驚くのは衛兵である。アルもルキウスの背後で唖然としたように足を止めている。唯一手を取られた女性は相変わらずの童女のような笑みでルキウスとの再会を喜んでいた。
「はい、お久しぶりです。騎士様」
「はい。魔女殿」
「ルキウス殿下だったのですか!? まぁ……では先日は数々のご無礼お許し下さい」
「いえ、頭を下げないで下さい。偽名を名乗った私が悪いのです」
「いいえ。殿下という立場であれば逆に必定というもの。お気になさらないで下さい」
ヘレナの言葉に苦笑するしかないルキウス。その背後を、緊張した面持ちでアルが付き従っている。ヘレナという『魔女』に少なからず恐怖しているのだろうとルキウスは思った。
「それで……魔女殿は王宮に何の御用でしたでしょうか?」
「あ、そうだわ大事な事なのに」
ぽん、と手を叩くヘレナ。大事な事をあっさりと忘れてしまう辺り相変わらずのほほんとした性格のようだ。
「陛下にお目通りをお願いしたいのです」
にこやかに告げたその言葉に、ルキウスとアルの動きが止まった。数瞬の間を開けて、アルが焦ったように口を開く。
「ま、待ってくれ! 貴方は魔女だろう! 陛下と謁見を希望とは一体……」
「陛下に一つお話がありまして」
ヘレナはアルにそう返事をすると、ルキウスの目を真正面から見た。その口元は相変わらず微笑んだままだ。
「殿下。陛下にお目通りをお願い出来ませんでしょうか。もしかしたらこの国を左右させる重要な事柄なのです」
「……ですが、陛下が許可を出すとは考えにくいのです」
「それはどういう意味でしょうか?」
「陛下は魔女等存在しないと断言していた覚えがあります。貴方の事も魔女と信じてくれるかどうか怪しい……それに、話を聞いてくれても信用してくれるかどうか……」
ルキウスの言葉に、ヘレナはキョトンとした表情を浮かべるも一瞬だけ悲しい瞳をしてすぐにルキウスに笑いかけた。
「……そう、ですか。分かりました。では、せめて忠告文としてこれを陛下に御献上願えないでしょうか」
ヘレナは懐から一つの書簡を取り出しルキウスに渡した。ルキウスは不思議そうな瞳で所管を見下ろした後、ヘレナを見る。
「これは?」
「今回私が訪問してお話をしようとした内容が書き留められています。出来れば口頭でお話をしたかったのですが、それも叶いそうにありませんのでせめてもの。念の為したためて来てよかったですわ」
ふふ、と笑うヘレナ。ルキウスはその笑みに申し訳なさそうに眉を潜めた。
「……なんだか申し訳ありません、魔女殿」
「いえ、気にしないでください。あ、その書簡ですが必ず陛下にお渡し下さい」
ふわり、と魔女が笑う。
「勝手に燃やしたりしないで下さいね。私……魔女なので」
まるで聖女の微笑みのような笑みを浮かべながら、自らが死神であると宣言する魔女に、ルキウスとアルは先程とは違う意味で動けなかった。
「………………」
モルド王は息子から渡された書簡に目を通し、忌々しげに表情を歪めていた。
「何が……平和的解決を望む、だ」
馬鹿馬鹿しいとでも言うようにモルド王は書簡を捨てるように床に落とした。玉座の肘掛けに肘を付け、頭の支えとすると気怠げに次男を呼び寄せるように官僚に言い与える。
程なくして現れた次男のグリフレットは恭しくモルド王の目の前で膝を着いた。
「御呼びでしょうか」
「仕事だ」
簡潔な言葉でモルド王はグリフレットに司令を与えた。
「最果ての森へ行き、自らを魔女と語る詐欺師の女を打首にしろ」
至極簡単に、モルド王はそう言い捨てた。