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「これは…」
”フラスコ”は絶句した。”ビーカー”は真っ青な顔で、ディスプレイのノイズを見やる。遺伝子特化型サンブル。識別名、限りなく水色に近い緋色、その能力は元素接合を主軸とする。つまり、空気中の酸素を元素結合し、圧縮酸素を人工的に生成する事で 発火能力パイロキネシスを行使できる、それが報告書にあった宗方ひなたの【能力】だった。追記としては発火能力は彼女との相性が良好であり、接合した元素によっては更なるの力の開発も可能、とある。今さらながら”シャーレ”と”スピッツ”の研究は、悪魔の所業と言える。そして現実は、さらに推論を上回った。
重力操作――地場を干渉して擬似重力を発生させた、という事か。しかし数字がデタラメすぎるくらい、コストが過剰なはずだ。
遺伝子レベル再構成――遺伝子配列を瞬時に操作し、時軸を進め治癒力を高めた。多分、その過程で 廃材(スクラップ・チップス)のバグを消したと思われる。どちらにせよ、悪魔の所業だ。
『結局、どうなったんだ?』
電話相手が痺れを切らして、声をかけてきた。
「……後でデータを送る。計測機をことごとく破壊されたから、正確ではないが、貴方にはそれできっと充分だろ」
『数字から語るお前が珍しい』
口笛まで吹いている。癪に触るが声にもならない。バケモノ――宗方ひなたは、間違いなくバケモノだ。その力を暴走なく制御した【デバッガー】もまた、同等の監視対象に指定すべきだ。この少女達は危険過ぎる――。
『バケモノであればある程、商品価値はあがる。そうじゃないか?』
声の主は冷静にそう諭す。無論、それは理解できる。理解した上で愕然としたのだ。このバケモノ達の覚醒に。
「総理、データを収集した上で判断すると良い。私は初めて、研究に恐怖を感じたよ」
この国の最高権力者は、小さく笑んだ。
『歓喜してるようにしか聞こえないが?』
笑った。”フラスコ”は確かに嗤っていた。嗤いながら唇を噛む。舌なめずりをしながら、自身の作品達を脳裏に浮かべながら。