第十六歩

途中まで明日菜と一緒に帰り、帰宅して宿題を終わらせた。
その後に簡単な夕食を一人で食べ、洗い物を済ませる。
一日のノルマをこなしたことに満足しながら、テレビの電源とCSチューナーの電源を入れる。
五十嵐があのバンドを気に入ってくれるといいな、そんなことをぼんやり思いつつソファにゆったりと座った。
ふと画面を観ると、今まで見たこともない試合風景が目に飛び込んできた。
ピッチはサッカーより狭く(多分フットサルコートと同じ位だろう)、サイドラインは壁で囲まれていた。
驚いたのは、フィールドプレーヤーが全員大きなアイマスクをしていることだ。
それさえなければ、フットサルの試合にしか見えない。
ゴールキーパーのみアイマスクをしておらず、忙しそうに味方への指示出しを行なっていた。
画面左上に『ブラインドサッカープレミアカップ決勝』と書かれ、その下に現在の点数が表示されている。
ブラインドサッカー?
ブラインドって目隠しとかそういう意味だよな、だからアイマスクをしているのか。
けど何の為に?
疑問に思った直後、解説者の説明が耳に届く。
それによると、どうやらこの中の何人かは視覚障害者らしい。
目の見える選手もいるようで、条件を同じにする為に全員何も見えないアイマスクを着用しているということだ。
プレーを見ている限り、目が見えていないとはとても思えない。
映像では目の前にいるディフェンダーを素早い切り返しでかわし(どうやってボールの位置やディフェンダーの動きを把握しているんだろう?)、豪快なミドルシュートをゴールに叩き込むところが流れている。
沸き立つ会場をバックに、解説は更に続く。
ボールの中には鈴が入っており、その音を頼りに選手はドリブルやパスをする。
またゴールキーパー、コーチ、そしてコーラーと呼ばれる声のガイドのみが選手に指示を出すことを許されている(その為観客は指示を遮らないように、プレーが途切れている時以外は出来るだけ静かにしていなければならない)。
つまり画面の中の彼らは鈴の音と仲間の声だけを頼りに、暗闇の中であれだけのプレーをしているのだ。
俺は試合に夢中になっていた。
展開がスピーディーで見ていて面白かったし、ハンディキャップを持った人間にあんなプレーが可能だとは想像もつかなかった。
一番驚いたのは、目の見える人も見えない人も共にスポーツを楽しんでいるところだ。
パラリンピックなど、障害者のスポーツが盛んなのは知ってはいたが、健常者と同じチームでプレーする競技があるとは知らなかった。
しかも俺の大好きなサッカーだ。
俺は夢中になってテレビを食い入るように見つめる。
そして試合が終わり番組が変わっても、俺はまだ画面を凝視していた。
目の見える人も見えない人も同じチームでプレーする、このスタイルは否応なしに五十嵐のことを思い出させた。
今までは無意識のうちに、彼女と共にプレーするなんて無理だと諦めていた。
しかしブラインドサッカーが新たな可能性を俺に示す。
別に同じチームだっていいじゃないか。
義足だからもうプレー出来ない、そんな考えは無意味な決めつけでしかないことをさっき見た番組は教えてくれた。
中学の時のあの日の五十嵐は、本当にキラキラと輝いていた。
空に虹を描くパスを、俺に見せてくれたんだ。
今だって本音ではサッカーを嫌いなはずはない、忘れられるわけがない。
だって、あんなに楽しそうにプレーしていたのだから。
出来ることならもう一度、と心の奥底では思っているはずだ。
膝から下を失って、今はもうサッカーのことなんて考えたくもないかもしれない。
けれど、ハンディキャップを持っていることと、サッカーが出来ないことは決してイコールじゃないから。
そこに少しでも情熱があるのなら、クローゼットの奥底にしまい込んでちゃ駄目だ。
五十嵐をフットサルチームの五人目のメンバーに誘うことを、俺は決心した。
彼女のことだ、いきなり誘っても断るだろう。
しかもこの話は彼女の足や心の傷にも関係してくることだ、丁寧に進めなければいけない。
具体的ないいやり方なんて一つも思いつかないが、この気持ちだけは本物だ。
俺は熱くなった頭をクールダウンさせる為、一旦シャワーを浴びた。
けれど、決意したことによる興奮は浴び終わっても途切れず、眠りにつくまで俺の体を駆け巡っていた。

寝太郎
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寝太郎

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