私をお兄ちゃんは、なぜか私の部屋にいた。理由は単純。余計な物がないからだ。
 お兄ちゃんはいろいろ溜め込んだ上捨てられない人なのだ。
 でも、お風呂あがりのレディの部屋ですることではないとも思った。
「電車やバスは面倒だから車で移動する。そして自宅から日帰り出来る範囲内を想定する。ここまではいいな?」
 お兄ちゃんはテキパキと地図を広げ、タブレット端末でその圏内の温泉宿の一覧を検索した。
「いいんじゃない?」
 私は、長い髪を後ろに束ねつつ、お兄ちゃんの話を聞き流した。
「お前聞いてんのか?」
「聞いてますよー」
 と私はテレビのリモコンを手にした。
「茉莉……」
 視界には入っていないが、こめかみの辺りを押さえるお兄ちゃんの姿が想像出来た。
「お前、やる気あんのか?」
「ありますよー」
「その言葉、真実味がない」
「ありますよー」
「もういい!」
 あ、キレた。
 視線を移すと、狭いパステル調のテーブルの上で、あーでもないこーでもないとぶつぶつ言いながら、何やら床に置いた(テーブルが狭くて置けないので)ノートPCに打ち込んでいる。
 私はそんなお兄ちゃんのひたむきな姿を眺めつつ、黙っていれば勝手にプランが出来上がりそうなので放っておくことにした。いや。温かい目で見守る事にした。

なぎのき
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なぎのき

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