部屋割りは、一番奥がお兄ちゃん。でその隣がお父さん。そしてお母さん。なんでこの二人が一緒じゃないんだろう? 夫婦なら一緒でも良いんじゃないかなと思ったけど、まぁ『一人一部屋』という旅館側の配慮(?)があったからかな? まぁせっかくの旅行なので一人でのんびりしたいのかも知れないけど。
 で、私はその隣。
 実はこれには理由があるのです。
 なんと私の部屋の目の前には自販機がある。それにはビールも置いてある。つまみもあったりする。
 こんなチャンスは滅多にない。
 ということで、意気揚々と部屋の中に足を踏み入れた。
――おおっ!
 八畳一間。広い! これを一人で専有出来るなんて、幸せいっぱいだ。
 奥の間には、ソファと小さなテーブル。作り自体は一般的だけど、ああ、いいなぁ。ちょっと古びた壁紙や障子戸は、外から見ただけでは分からない良い雰囲気を醸し出している。
 私はとりあえず部屋の真ん中に仰向けに寝転がり、両手両足を投げ出した。
 もちろん、どこにもぶつかったりしない。
 これはのんびり過ごせそうだな。
 と思ったのも束の間。
「茉莉!」
 いきなりお父さんが怒鳴り込んできた。
 ドアを開けっ放しにしていた私も悪いけど、一応『年頃』の『娘』の部屋はなずだ。ちょっとは考慮して欲しい。
「何よいきなり」
「出かけるぞ!」
 は?
「せっかく『秘境』に来たんだ。探検しなければもったいないじゃないか? そうだろう?」
 いや、そうだろう? とか言われても。
 ここは温泉旅館じゃないの?
 でもお父さんは、そんな私の胸中なんかガン無視した。
「五分後にロビーに集合だ。じゃな」
 そう言い残し、風のように去っていった。
 多分お兄ちゃんの部屋に行くんだろうな。
 私はそんなことを考えつつ、荷物を床にぶちまけて『探検用』に荷物を詰め直すのだった。

なぎのき
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なぎのき

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