「まだ着かないのぉ?」
 秘境探検開始一〇分で私は悲鳴を上げた。
 まさに道無き道。地図に『道』の記号が一切なかったのは、それが真実だったからだ。
 でもそれなら『滝』は一体誰が発見したんだろう? という疑問が浮かぶが、今はそれどころじゃない。
「お前徒歩一時間を舐めてるだろう?」
 お兄ちゃんは冷徹にも、そんなことをいう。
 私だって万が一を考えて色々工夫したんだ。ちゃんとスカートからパンツに穿き替えて、パンプスじゃなくスニーカーを履いて準備したんだ。
 リュックがちょっと重いのが問題だけど。
「お前さ、その中、何が入ってんだ?」
 何が入っているか。
 それを訊くのか我が兄よ。
「秘密の七つ道具」
「は?」
「秘境探検でしょ? 万が一を考えて、非常食とか寝袋とか傘とか飲み物とかその他色々入れてきたのよ」
 どうよ。この茉莉様の用意周到さ。
 ところが。
「オヤジを見てみろよ。あの軽装。きっと防虫スプレーくらいしか持ってないぞ」
 お父さんはは動きやすそうな長袖の上にサバイバルベストを羽織り、先陣きって藪こぎしていた。
 そして私は、この兄の一言で大事な物を忘れた事を知った。
「ああっ! 防虫スプレー忘れたっ!」
 失態だ!
 用意周到が聞いて呆れる。
 何となく。疲れがどっと押し寄せた感が私を襲った。

なぎのき
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なぎのき

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