さらにさらに一時間が経過した。
 お父さんもさすがに疲れたらしく、藪が覆い茂る中にちょっとした隙間を見つけ、どっこらしょと座り込んだ。
 宿を出発してから二時間、ずっと歩きづめだ。しかも藪こぎしながら。四〇過ぎのお父さんにしては頑張ったほうだと思う。
 かくいう私も、そこそこ疲れている。とはいえこんなところでじっとしているのは性に合わない。
 それに、どうせ目的地なんてないんだから、ここを折り返し地点にして宿に戻る可能性もある。
「じゃ休憩ね。私はその辺うろついているから、出発するか帰るかしたら呼んで」
 私はそう言い残し、なぜか目の前に人の大きさくらいの隙間がぽっかりと開いた藪の中に歩を進めた。
――ん?
 何かある。
 石で出来た、明らかに人の手による物体。
 小さいながらも家屋の形をしているソレの中にには、何か判別出来ない物体が鎮座していた。
――祠ってやつかな?
 私はしゃがみ込んで、それをまじまじと見つめた。
 その場所だけ、まるで世界から切り取られたように静かだった。
 かつて誰かがここに来たのだろう。枯れて風化しかかっているお花が供えてあった。
「まぁここまで来たんだから、ついでだわ」
 私は意味もなく両手を合わせた。
「無事に宿に帰り着きますように」
 とこれまた意味もなくお願いしてみる。
「おい、茉莉?」
 お兄ちゃんが呼んでいる。呼んでいるけど、ひどく遠くから呼んでいるように聞こえた。
「んー?」
 私は祠から目を離せなかった。
 何だろう? 何かが引っかかる。
 そんな事をボケっと考えていると、お兄ちゃんがヘッドスライディングしてきた。転んだらしい。
 その勢いで、供えてあった、朽ちかけたお花が吹き飛んだ。
「お兄ちゃん、何してんの?」
「お前のようにはいかないってことだよ」
 意味が不明だった。
「良いんだよ、俺のことはさ。で、何見てんだ?」
 見てわからないかな? なら聞いてやる。
「ねね、お兄ちゃん、こういうのってホコラって言うんだっけ?」
「まぁ、そうだな。多分そうだ」
 多分、ね。
 でもここまで風化していると、私も断言は出来ない。ただ、人造物には違いない。そして疑問。もちろん、その疑問をぶつける先は、我が兄だ。
「なんでこんなところにあるのかなぁ?」
「何かを祀ってるんだとは思うんだが……」
 お兄ちゃんは、そう言いながら私のそばに寄ってきた。
 その時だった。
 私の頭に小石が当たった。
――はえ?
 次の瞬間。
 お兄ちゃんが私の首根っこを掴み、後ろに引き倒した。
「お、お兄ちゃん!」
 轟音がした。
 頭上にあった大きな岩が、周辺の土砂や木々を巻き込み崩れ落ちてきた。
 お兄ちゃんは、その土砂崩れに飲み込まれた。

なぎのき
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なぎのき

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