第二章 首飾りと情報屋 4

「話をしましょうか」

切り出したのは俊輔だった。

「麗羅は、先ほどの月影さんとのやり取りでどこまでわかりましたか?」

「首飾りを流夏さんも妖宇香さんも持っていること。それがとても貴重な物で狙われるということ。そして、それを巡って何かがあったということ、です」

「察しがよくて助かります」

淡々と述べた麗羅に俊輔が微笑む。

「話すなら、俺ではありませんよね」

そう言って少し前を歩く流夏を見た。

「目的地に着くまでに、終わらせるからな。早口でいくぞ」

「はい、大丈夫です」

そして流夏は突然自分の後ろの首元の髪を上げた。

「あっ」

麗羅は思わず声をあげた。流夏はすっと髪を戻す。

「酷い傷だろ?」

髪に隠された場所には酷い傷跡があった。おそらく、何度も同じような箇所を傷付けられたものだ。皮が抉れた跡が沢山ある。

「首飾り、だからな。この辺りを狙われていた。幼い弱い俺は、逃げることしか出来ずに沢山斬られた」

「酷い、傷ですね」

戦いに慣れている麗羅でさえ目を背けたくなるような傷跡だった。

「俺と妖宇香は母と三人でひっそりと暮らしていた。父は妖宇香が生まれてすぐに死んだ。幼かった俺は、あまり父を覚えていない」

流夏は先ほどの首飾りを取り出すと、それをジッと見つめた。

「これは、父が作った物らしい。世界に二つしかない」

「綺麗ですね」

「母は二つの首飾りを父の形見だと大切にしていた。平和に暮らしていた。だが、あの日はやってきた」

思い出したくもないあの日。初めて剣を握ったあの日。

「俺と妖宇香が家に帰ると、見知らぬ男がいた。その足元には、血だらけの母がいた」

むせ返るような血の匂い。

あの光景は今もハッキリと覚えている。

「首飾りを狙った強盗の仕業だった。ちょうど首飾りを持ち去ろうとしていた。俺は扉のすぐ側にあった剣を掴んでその男に駆け寄って、そいつを殺した」

あの瞬間、とてつもない恐怖と嫌悪感と共に才能が開花した。

「それから数年は妖宇香と二人で隠れながら、逃げながら暮らしていた。最初のうちは怪我もしたが、段々と剣の腕も上がった。自分の能力にも気付いたしな」

そう言って流夏は指先から炎を出した。麗羅は突然の光にまばたきする。

「流夏さんの能力は炎なんですね」

「お前、本当に何も知らずに挑んできたんだな」

「は、はい」

麗羅の反応を見つつ流夏は少し呆れたような顔をしたが、それはすぐに真剣な表情に変わった。

「ずっと戦って隠れて逃げ続けていた。そんなある時、沢山のヤツに囲まれた。なんとか妖宇香が怪我をする前に倒したが、最後の一人の相手をした時に、俺は谷底へ落ちた。それから妖宇香とは、一度も会えていない」

「とまあ、こんなところでしょうか」

「長かったか?」

「いいえ。話してくれて、ありがとうございます」

「それからしばらくして俺と出会い、二人で妖宇香さんを探してきました」

麗羅は二人がずっと探してきた苦労を思い、顔を綻ばせた。

「今日、ようやく会えるんですね」

「ああ」

流夏の返事はそっけなかったが、どことなく声が嬉しそうだった。

「こっちですね」

俊輔が道を示したその時、向かう方向から女の子の悲鳴が聞こえた。嫌な予感がして、三人は走り出す。

「ここです!」

俊輔が叫ぶと流夏が扉を開けて飛び込む。

中は荒らされた後があり、誰もいなかった。

「なんてタイミングだよ」

流夏が首の後ろを押さえながらそう呟いた。

七条雫
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