第二章 首飾りと情報屋 5
薄暗い部屋で、妖宇香はゆっくりと目を開けた。
「私、一体どうして?」
そうだ。捕まってしまって、縛られてるんだっけ。
朦朧とした意識の中で、妖宇香はあることに気付いて悲鳴をあげた。
「首飾りが、ない」
どうしよう、父様と母様の形見なのに。自分の目印なのに。
「気付いたのかい?」
てっきり一人だと思っていた妖宇香は驚いて振り返った。部屋の隅に、薄紫色の髪をした青年が椅子に座っていた。
「あ、あなたは?」
怯えている妖宇香を安心させるように、青年はニッコリ笑って立ち上がった。
「ごめんね。依頼主の頼みなんだ。君の首飾りは世界に二つしかない。それを奪えって。君を監禁してるのは君の兄貴も来るかもしれないからだって」
「兄様?」
「すごくいいタイミングで情報屋から君のことを聞いて、君の家にいる。ここを見付けて助けに来るんじゃないかな?僕が君の兄貴なら絶対来るね」
妖宇香はそれを聞いて嬉しそうにした。だが、すぐに表情を曇らせた。
「両親の形見の首飾りを奪われたなんて、兄様に合わせる顔がありません」
瞳に涙をためる妖宇香に、青年は慌ててフォローする。
「泣かなくていいんじゃないかな?僕なら、自分で取り返すよ」
その適当な物言いに、妖宇のは思わず笑った。
「兄様も、そう言いそうです」
「うん。君は笑っていたほうがいいよ」
「あ、ありがとうございます」
照れる妖宇香に青年はまた笑った。その直後、青年は妖宇香に近づいて、包帯を巻いている左腕を上に振り上げた。次の瞬間、スパッと妖宇香を縛っていた縄が切れた。
「君は兄貴を助けてあげたらいい。そこそこ強い敵は僕が殺しておいてあげるから」
「でも、いいんですか?」
「うん。別にこの仕事が好きなわけじゃなかったし、仕事はこなしたよ。君を連れてきて首飾りを奪った。契約はそこまでだよ」
「そうですか?」
「だから取り返すのに荷担しても問題ない。それに、僕にも妹がいるから放っておけない」
行こう、と青年が妖宇香に手を差し延べた。
「あ、あ、ありがとうございます。えっと」
「名前かな?一応、未玲(ミレ)っていうんだ」
「未玲さんですね。私は妖宇香といいます。本当にありがとうございます」
「うん」
そう言って未玲という青年は再び左腕を振り上げた。次の瞬間、檻は破壊されていた。
「行こうか、妖宇香ちゃん」
「はい!」
妖宇香は笑って未玲の手を掴んだ。