第二章 首飾りと情報屋 10

「未玲さんは地下だと言っていましたね」

「未玲兄は妖宇香ちゃんの見張りを任されていたくらいですから、おそらく情報も正しいでしょう」

四人は地下へ向かって階段を駆け降りていた。

「妖宇香、大丈夫か?」

「はい!足の速さなら自信があります!」

「そうか。無理はするんじゃねぇぞ」

「はい!」

三人に一切遅れをとらない妖宇香に、麗羅と俊輔は少し意外そうにしていた。

「流石は流夏の妹。スピードは尋常じゃありませんね」

「長年逃げて来ましたから」

「なるほど」

普通に話しているが、敵地でいつまでもそんなにのんびりはしていられなかった。

「侵入者だな!」

武器を持った体格のいい男が二人、飛び掛かってきた。

麗羅と流夏が剣を抜こうとした。が、それよりも速く俊輔が男二人を薙払った。

「あなた方も仕事だとは思いますが、それにしても身の程知らずですね。恨まないで下さいよ」

麗羅と妖宇香はそんな俊輔をぽかんと見つめていた。

「ああ、俺の武器は薙刀なんです」

「いえ、それは今日出発した時に俊輔さんが薙刀を持っていたのでわかっていましたが」

麗羅の言葉に俊輔は苦笑する。

「これ、隠せないんですよね。考えなくてはいけませんね」

「俊輔さんって、お強いんですね!かっこよかったです!」

妖宇香がニッコリ笑う。流夏が顔を引きつらせた。

「ありがとうございます。では、先を急ぎましょうか」

そして再び四人は階段を駆け降りた。




「一体この階段はどれだけあるというんだ!」

流夏が叫んだ。もう、四人が階段を駆け降り始めてから一時間は経過した。

「おや、もしかしてお疲れですか?」

「違う!」

「私も、この階段は長すぎる気がします」

「そうですね。俺もそう思いますよ、麗羅」

「お前……」

流夏が睨み付けてきているのを無視し、俊輔は話を進めた。

「そろそろ、厄介なヤツが出てくると考えて構わないと思いますよ」

「あの、俊輔さん。ずっと戦っていて、大丈夫ですか?」

最初の襲撃から腕が鈍っているので、という理由で俊輔が一人で応戦し続けていた。

「ありがとうございます、妖宇香さん。心配には及びませんよ」

そう妖宇香に笑いかけ、突然立ち止まると、ブンッと薙刀を振り、右側の壁に突き付けた。

「出て来たらどうです?それとも、そのまま死にたいですか?」

すると壁が動いて、一人の男が出てきた。

「よく見破ったな」

「やり方が古典的ですね。それで俺に勝てるとでも?」

「確かにお前は強い。だが、こちらから狙えば勝てなくはない!」

「こちら?」

男は俊輔に向かって鉄の塊のようなものを投げ付けた。

俊輔は全く表情を変えずに、薙払った。

「これがどうしたんです?」

「まだ気付かないのか?」

もう一つ投げられた塊。それは無防備な着物の少女へと向かっていた。

「え?」

「妖宇香ちゃん!」

麗羅が動くより鉄の塊が妖宇香に当たるほうが早い。その場に爆発音が響いた。

「鉄型、爆弾?」

麗羅が爆風に耐えながら呟いた。

「気付くのが遅かったな」

さっきまで妖宇香がいた場所には何もなかった。

嫌な沈黙が流れた時、しばらく会話に入ってこなかった人物が口を開いた。

「そんな武器ごときで妖宇香を殺そうとするなんて、お前は本当に雑魚だな」

妖宇香を抱えた流夏が麗羅の横に着地した。

「流夏さん!」

「ありがとうございます、兄様」

「ああ」

俊輔と男の会話で、ギリギリで流夏は察していたのだった。男が投げた瞬間に動き出し、妖宇香を抱えて上に飛んだのだ。

「無事ですか?」

「ああ。少し衝撃を食らったが、無傷だ」

「流夏ではなくて、妖宇香さんですよ?」

「そう言うと思ったぜ」

流夏はそう言って苦笑した。

「あいつが逃げます!」

「逃がしませんよ」

俊輔が眼鏡を外して笑う。麗羅はあまりにも綺麗なその顔に、一瞬、見とれてしまった。

しかし、すぐに俊輔の変化に気付いた。

「目が、緑色に?」

「前に言いましたか、この眼鏡は能力制御のためでもあるんです」

俊輔に睨まれると男は恐怖から動けなくなった。そして、悲鳴をあげながら土から現れた草のような物に囚われていく。

「さようなら」

俊輔がそう呟いた瞬間、草が男を握り潰した。草と血がその場を舞う。

「俺の能力、不気味で気に入っています」

そう言って俊輔は寂しそうに笑った。麗羅は首を横に振る。

「俊輔さんは、とてもカッコいいです」

「ありがとうございます」

「場違いなことを言うな」

ツッコミを気にせず、麗羅は流夏に近寄ると微笑んだ。

「さっきの流夏さん、かっこよかったですよ」

「かっ……!?」

顔を真っ赤にしてうろたえる流夏。妖宇香がそれを見てクスリと笑った。

「頑張って下さいね、兄様」

「何をだ?」

「いいえ、何でもありませんよ」

首を傾げる流夏に、俊輔と妖宇香は顔を見合わせておかしそうに笑った。

七条雫
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七条雫

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