第一章 転校生と眼鏡と小さな侍 3
麗羅が転校してきてから何日か経過した。今日もいつものように俊輔と修と帰っていた。
「じゃあな!俊輔!麗羅ちゃん!」
「はい。また明日」
いつもの分かれ道で修がいなくなった。
しばらく歩いたところで俊輔が口を開いた。
「綾刀さん、あなたは普通の人間ではありませんね?」
そう言われた麗羅は大して驚きもせずに頷いた。
「いつから気付いていたんですか?」
「なんとなく、ですよ」
「流石ですね。気付かれないとは思っていませんでしたが、こんなに早くに気付かれるとは思いませんでした」
三人でいた時までの穏やかな空気が嘘のように、二人は淡々と話した。
「笹間さんは、昔は名もなき鳥という呼ばれていましたよね?」
それを聞くと俊輔は目を見開いた。だが、その表情はすぐに消え、いつもの余裕の表情へと戻った。
「調べてもあまり出てこないはずなんですが、よくわかりましたね。その通りです。けれど今はただの人間、笹間俊輔ですよ」
「そうらしいですね」
「俺に何かご用ですか?これでも地味に生きてるつもりなのですが」
少しだけめんどくさそうに俊輔は言った。
「笹間さんに危害を加えるつもりはありません。ただ、お願いがあるんです。流夏(ルカ)さんという人にお会いしたくて」
「流夏と知り合いということまで知ってるんですね。一体、あなたは何者なんです?」
俊輔が睨むような視線を送りながら聞いた。
「私は天界から来ました。風を操る能力者です。私の力を試すため、あなたと流夏さんの力を貸して下さい」
そう言った時、麗羅の瞳が少しだけ揺らいだ。俊輔はそれを見逃さなかった。
麗羅の目はどこか哀しそうだった。俊輔を見るそのまなざしは、とても真剣なものだった。
「仕方ないですね。流夏に頼んでみます。何か事情があるようですし、それ以上は聞かないでおきますよ」
俊輔がそう言うと麗羅の表情が少しだけ明るくなった。
「ありがとうございます」
冷たい空気は消え、穏やかな空気に変わった。
「ありがとうございます、笹間さん」
「俊輔で構いませんよ」
「はい。俊輔さん」
そう言って麗羅は少しだけ笑った。
「ところで、綾刀さん」
「はい」
「これからお暇ですか?」
「は、はい?」
麗羅は驚いて目をぱちくりさせた。その表情を見て俊輔は笑った。
「そういう意味ではありませんよ」
「笑うなんてひどいです」
「すみません。あまりにも可愛かったもので」
俊輔がそう言うと麗羅の頬がほんの少しだけ赤くなった。こういうところは普通の女の子みたいだと俊輔は思った。
「今日ちょうど、流夏が来るんですよ」
「あ、そういうことですか」
「はい。来ますか?」
「俊輔さんがよければ」
「決まりですね。行きましょうか、綾刀さん」
そう言って俊輔は歩き出した。
「あ、あの、俊輔さん」
「はい、なんですか?」
「私のことも、麗羅と呼んで下さい」
麗羅が少し恥ずかしそうにそう言うと俊輔はクスリと笑って麗羅、と言った。