第三章 妹と目利きと名もなき鳥 2
「おお!」
建物に辿り着くと、万里は目を輝かせた。
「結構いいだろ?」
「結構っていうか、普通にいいじゃん!大きいし綺麗だしオシャレだし!」
「気に入ったならよかった」
二人は家に入るとリビングのソファに座った。
「私は着替える。だから、万里から話せよ」
「うん、そうだね」
麗羅が隣で制服を脱ぎ出した横で、万里は口を開いた。
「私、逃げてたら砂漠に不時着しちゃったの」
「だから遅かったのか」
シャツに腕を通しながら麗羅が返した。
「いや、もちろんそれだけじゃないからね!それだけなら一ヶ月もかからないよ!」
やだなぁ、と万里は笑ったが、麗羅は一ヶ月かかっても別におかしくないだろうと苦笑した。
この万里という少女には常識的な考えは通用しない。何故なら彼女は、能力者の中でも更に人間離れしているのだ。今のところ万里より強い能力者は天界にも地下世界にもいないだろう。
麗羅すら昔からずっと一番近くにいる自分の片割れを、遠くに感じる時がある。
「ある人と出会ったんだ。その人と、時間が止まった空間に捕まっちゃってね。そこに閉じ込められてたの」
「特殊な結界か」
「多分ね」
「大変だったんだな」
「うん。でも、あったのは悪いことだけじゃないから」
着替え終わった麗羅の手を握って万里は目を閉じた。
「万里?」
「麗羅以外の人を、初めてあんなに大切に思えたんだ」
その言葉に麗羅は心から驚いた。万里は幼い頃から麗羅と母だけを過剰なまでに愛していた。卓越した能力を持つ自分を恐れる他人。まだ幼い少女である自分に怯える大人達を見ては、万里はよく嘲笑った。
そんな万里に普通に接した麗羅と母だけを溺愛し続けていた。
長い付き合いの幼なじみ達には好意を抱いていたが、麗羅に対しての異常な愛はその比ではなかった。
その万里が、好きな人が出来たと笑ったのだ。
「そうか」
短い返事だった。が、そのあとに麗羅は嬉しそうに笑った。
「あ!もちろん麗羅は大切なんだからね!」
「はいはい」
「ホントだからね?」
「わかってるよ。私も万里が大切だからな」
「わーい!麗羅大好き!」
飛び付いてきた万里を避けて少し笑う。そこで麗羅はふと思ったことを口にした。
「それで、その人は?」
万里は起き上がると、ああ、と笑った。でも、その目は暗くて笑っていなかった。
「私のせいで死んじゃった」